アイドルは年齢とキャリアをどう重ねていく? AKB48、Perfume、Negiccoが示す新モデル

「アイドルと加齢」という古くて新しい問題、そしてトップランナーたちが示すもの

「「アイドル」という言葉というかジャンルの興味深いところとして、「その後」のことをみんなが過剰に心配するっていうところがあって。アイドル特有ですよね。演劇だったら「続けたい人は続ける、就活を機に生活のバランスをシフトする人はシフトする」くらいの感じで見ていると思うんですけど、アイドルはすごく心配されやすい。10代の前半~中盤からアイドル人生が始まってしまうからというのが大きいと思いますけど」(レジーのブログ「アイドルと自意識、アイドルの自意識22 - 『「アイドル」の読み方』を巡る香月孝史さんとの対話(後編)」より

 当サイトで「アイドル論考・整理整頓」を連載中の香月孝史氏から聞いたこの話は、自分の中で深く印象に残っている。「アイドル戦国時代」を経てアイドルを名乗る女子の数が著しく増えていることを考えると、まもなく「元アイドル」がそこら中にいるという誰も体験したことのない時代が到来することになる。10代前半で芸能の世界に飛び込んで、場合によっては何のスキルも得られぬまま、「若さ」が失われると同時にそこからの退出を余儀なくされる。(少し大げさな話かもしれないが)そんな形で世間に放り出されて不幸になる人を少しでも減らすためにも、年齢とともに消費されていく従来型の「アイドル像」の更新が求められる。

 受容する側がアイドルに「若さ」を求めがちな一方、アイドル自身もこれまではキャリアを積むにつれて「アイドルではない何か」になりたがる傾向があった。「アイドルという肩書はあくまでも通過点で、その先にある本当になりたいものを目指すべし」という考え方は、そもそもはAKB48でも採用されているものでもある。そんな状況に照らし合わせると、昨年12月20日の「ボクらの時代」において前田敦子が高橋みなみと指原莉乃を前にして話した内容はとても興味深い。

「(いつまでアイドルなのか、という高橋みなみの問いに対して)アイドルで始まったなら、アイドルで終わるんだよ。やめてからも、メディアでの取り上げられ方は「あっちゃんが」。「あれ、変わらないぞ?」と。でもそれって別に嫌なことじゃないなと思って。だから肩書は(高橋が)「歌手」とか(前田が)「役者」だけど、今でも「アイドル」」

 冒頭の香月氏の話に引き付けると、アイドルに「その後」なんてない、自分はこれからもアイドルとして人生を送っていくのだから心配はいらないという意味にも読める。女優としての地位を固めつつある前田敦子が「これからも自分はアイドルだ」と発言することに勇気づけられる現役アイドルも多数いたのではないだろうか。

 また、「若いことだけが美徳ではない」ということを自らの活動を通して伝えようとしているのがPerfumeである。「アイドルとアーティストの違い」という不毛な問いを無効化させながら道なき道を進む彼女たちは、年齢に応じて表現のマイナーチェンジを図っている。以下は、PerfumeのブレーンでもあるMIKIKOの発言である。

「高校生、大学生の頃はなるべく直線的に、ラインを出さない振付けを心がけていたのですが、今は、3人の変化に合わせて品のいい曲線のラインも加えての表現を追求していますね」(「装苑」2016年5月号より)

 Perfumeの振り付けに女性らしいしなやかな動きが目立つようになったのはシングルで言うと「スパイス」「Spring of Life」あたり、23歳ごろからだろうか。さらに、最近ではボーカルについてもエフェクトが弱まる方向に進んでおり、女性として、人間としての成熟をよりダイレクトに表現へ反映させる傾向が強まっている。

 Perfumeの活動全般について、MIKIKOは同じインタビューでこうも発言している。

「これからも、彼女たちの年齢に応じて、その時がいちばん輝く見せ方を作っていけたらいいなと思っています。それは例えば、かわいさであったり女の子であること、性別を売りにしない表現ということ。それが、3人の自信にもつながっていってほしい。日本はまだ、女の人が若さを失うことはマイナスだという世の中ですよね。でも本当はそうじゃなくて、年を重ねることは楽しくて、自分自身の財産が増えていくということ。表現にだって幅ができていきます。年相応がすてきで肯定したいことだというメッセージは、Perfumeのパフォーマンスを通して、伝えていきたいことの一つです」

 表現の境地として、すべてのアイドルがPerfumeのレベルに到達できるわけではない。それでも、ローカルアイドルを出発点として今では海の向こうでも支持を得ている人たちがこういうスタンスで活動しているというのは、「アイドルを続ける」もしくは「女性がステージに立ち続ける」ということについて多くの人に希望を与えているはずである。

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