fhánaが示した“世界線の豊かな広がり” Zepp Divercityワンマンライブで感じたこと

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 ここでふたたびMC。佐藤の口から新作『What a Wonderful World Line』に込めたテーマが語られる。「『世界中の誰もが人とは分かり合えないかもしれないし、人生に生きている意味なんてないかもと思っているかもしれない。でも、だからこそ、一周回って希望があるかもよ。人生に意味なんてないのなら、自分で意味を与えるんだ。灰色の世界に色彩を与えるんだ(=「The Color to Gray World」)』。そんなことを考えながらアルバムを作って、こうしてライブをしていると、音楽を聴いてくれているほんの一瞬かもしれないけれど、心が通じ合ったと思える瞬間が確実にあるんです。そんな音楽をみんなと共有出来て、誇りに思います。どうもありがとう」。

   そうして演奏された新作のタイトル曲「What a Wonderful World Line」では、より親密な雰囲気が会場を包む。人は完全には分かり合えないからこそ、分かり合えた時の喜びは何物にも代えがたいものになる。そんなfhánaらしいメッセージが、確実にオーディエンスの心を満たした瞬間だった。英語詞の4つ打ちダンス・チューン「Relief」では観客から自然発生的に手拍子が発生。続いてお待ちかねの「ワンダーステラ」や、イントロのストリングスが鳴った瞬間に叫びにも似た歓声が上がった「星屑のインターリュード」で観客の興奮は最高潮に。壮大な演奏に乗せて〈長い旅の果て/ここまで辿り着いた/「この僕」に/同じ景色はまるで違う光を/まとって見えた〉と歌い上げる「white light」で本編の幕を閉じた。

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 興奮冷めやらぬ観客に応えて登場したアンコールは、「星屑のインターリュード」のカップリング曲「ソライロピクチャー」から始まるという珍しい展開。7月から放送が開始される『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』のEDテーマを担当することがファンの前で報告され、メンバーがそれぞれ今回のツアーの感想を口にする。towanaは「ますます、『ライブが好きだな』という思いが強くなったツアーでした。みなさんの顔を見て、演奏が、歌が、もっと好きになる。それは、初期騒動的なものではない種類の『好き』なんだと思います。みなさんが歩いている世界線が、素晴らしいものになりますように。そして私自身も、今歩いているこの世界線が一番素晴らしいものだと信じて、これからも歌っていきたいと思います」と語ると、佐藤も続けてこう伝える。「fhánaの物語は、fhánaだけで作っているわけではない。みんなで作っているものなので。これからもfhánaの物語に参加してください。その先には、“憂鬱の向こう側”があるんじゃないかな」。そう照れ臭そうに言って始まった「Outside of Melancholy 〜憂鬱の向こう側〜」では、ステージ中央のkevinと共に観客がジャンプ! そのまま「光舞う冬の日に」を経て、towanaの加入前、3.11の混乱さめやらぬ中でTwitterを介して集まった3人がfhánaとして最初に制作した「kotonoha breakdown」に突入すると、原曲以上に強烈なディストーションがさく裂するyuxukiのギターが楽曲に新たな色彩を加えていく。そしてアンコールのラストは、新作の最終曲「gift song」。〈その時交わったんだ/ほんのひとときだけど/君と僕はそうただ独りのまま/分かり合うのさ〉とtowanaが観客に向けて歌う様子は、世の中のありのままを肯定して七色のファンタジーを紡ぎだす、このバンドの最もピュアな部分を表しているようだった。

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 fhánaは本当に不思議なバンドである。ロック・バンドのようにド派手な力技やトリックで無理やり聞き手をねじ伏せるわけではない。しかし、ともすれば堅実で控えめにも映る彼らが奏でる旋律は、観客との化学反応を何度も積み重ねて、驚くほど大きなインパクトを生み出していく。その様子はまるで、00年代後半以降の日本のインターネット音楽シーン上に根付いたN次創作の概念を、バンドに置き換えて再現しているかのようだ。気づけば公演開始から3時間弱があっという間。バンドの歴史を駆け抜けたこの日のライブは、彼らとファンとのこれまで/これからを繋ぐ世界線の、豊かな広がりを感じさせる一夜だった。

(写真=HAJIME)

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

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