バックドロップシンデレラ、なぜ名曲を“ウンザウンザ”で踊る? 各国民謡とBUCK-TICKカバーが並ぶ異色作を分析

バクシン、なぜ名曲を“ウンザウンザ”でカバー?

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 特筆すべきは、全曲通して「○○風」「○○調」といった中途半端なリアレンジでなく、本格的な民族音楽に取り組み、ウンザウンザしていることだ。これまでもさまざまな音楽要素を持ち込んでいたわけだが、あくまでロックバンドが基盤にあるサウンド&アレンジだった。しかし、今作では編成や型に捕らわれず、楽曲アレンジを第一に考えている。ヴァイオリンはちゃんとフィドル(※民族音楽で用いられる際のヴァイオリンの俗称であり、より幅広い奏法が求められる)としてフィーチャーしているし、ウッドベース的なフレーズやガットギターの導入など、アコースティックなサウンドも多い。また、メフテル(※オスマン・トルコ帝国の軍楽)のようにけたたましく打ち鳴らされるリズムや、チョチェク(※ジプシー・ブラス、バルカン・ブラスとも呼ばれる)を彷彿とさせる旋律など、多様な異文化アプローチも随所に鏤められている。サウンド、リズム、楽曲展開……、細部にまで行き届いたアレンジにより、クオリティの高いワールドミュージックとして成立させているのである。

「ライブのことを考えると作れないということもあり、ライブで演奏することを一切考えずアレンジしました。アイデアを含め、作品としてやれることは全部やろうと。だから、今までできなかったことまで挑戦してます。ライブでやらない、という前提があるからこそ、そこまで踏み込めたんです。以前はアイデアはあっても『それ、ライブでできないじゃん』ということでボツになったりもしていたので」(ペリー)

 たとえば、キャナコがメインボーカルを取る「サウスボー(ピンク・レディー)」は昭和歌謡ポップスにフラメンコテイストを盛り込んでいるが、シンプルでフォーキーな仕上がりというのもこれまで無かったバンドの新境地だろう。

「この曲のアレンジが一番大変でした。レコーディングの後半はずっとこればかりやっていて、かなり時間が掛かりましたね……」(キャナコ)

「原曲のレベルが高すぎて。スカにすればイケるんじゃないかと高を括っていたら全然ダメでした。どう切り崩して行ってもダサくなってしまうのが悩みの種で……。歌詞含めて凄まじい曲ですね」(ペリー)

 日本人でも子どもの頃に親しんだ「マイム マイム(イスラエル民謡)」「一週間(ロシア民謡)」といった異国情緒溢れる民謡との親和性、中でも70年代を代表するディスコナンバー「ジンギスカン(Dschinghis Khan)」の無国籍感は、バックドラップシンデレラと異様なまでにハマっている。ギラギラとした派手なアレンジはもちろん、でんでけあゆみ(Vo)の人を喰ったような歌声と相まって、ペリーによるオリジナルの日本語詞も強烈なインパクトを放つ。

「英語は歌いたくても歌えないバンドなので、変えざるを得なかった(笑)。ウチらの今までの流れを踏まえつつ、池袋と埼玉で。『池袋は埼玉県民ばっかり』というのが定説じゃないですか。そのテーマで書いていたんですけど、ふと『本当にそうなのか?』と思い立ち、調べてみたら、どうやら最近の事情は違うという事実が発覚しまして。今はみんな、池袋来てないらしいんですよ。急遽、真逆の内容に(笑)。湘南新宿ライン恐るべしっ!」(ペリー)

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 対照的に、ロックサイドというべき曲もある。ペリーのボーカルによる「シュラバ★ラ★バンバ(サザンオールスターズ)」は原曲よりテンポをあげ、リズムの跳ね具合も心地良く、ガッツリとしたギターリフがたまらない。ファンクとハードロックが融合したアレンジだ。そして、アクの強い選曲の中でも、一際異質感があるのは「イメージしてたボーカルの声があって。それに一番近いのがアイツだった……(ペリー)」と語る、鬼ヶ島一徳(Dr)ボーカルの「ICONOCLASM(BUCK-TICK)」だろう。オリジナルはハンマー・ビートが反復するインダストリアル・ナンバーだが、「こうきたかっ!」と思わず唸ってしまうほどのバックドロップシンデレラ節が襲いかかる。

「2トーンのスカのイメージですね。ボーカルもそれっぽい煽りで。僕、BUCK-TICK大好きですから、『『ICONOCLASM』をカヴァーするってことはさぁ〜、』って、一人で熱く語ってました(笑)。ファン的に見れば、シングルではないけど特別感がありますからね。『TABOO』(1989年 アルバム)に入ってるオリジナルバージョンから『殺シノ調ベ』(1992年 アルバム)バージョン、ライブでもずっとやり続けて未だに進化している曲」(ペリー)

「メジャー・コードでやってみようというのもあったんですけど、結局、そのままの感じがカッコイイということで。やっぱり、あのベースラインがカッコイイです」(キャナコ)

 狂気の「だんご3兄弟」ではじまったアルバムは、型破りと意外性を交錯させながら、メランコリックな和情緒の漂う「にっぽん昔ばなし(まんが日本昔ばなしオープニング)」で幕を閉じる。最初から最後まで濃い内容だが、思わず何周でもリピートしてしまう楽しさがある。

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