橋本徹が『Good Mellows』シリーズを通して伝えたいこと「音楽を空間と一緒に楽しみたい」

モノとしての良さも伝え続けていきたいという気持ちがあって

20160428-gm1.jpg
『Cantoma For Good Mellows』

――以前のインタビューでは「好きな音楽をどうやって世の中に届けるか」というお話で、プロモーションに関するお話をお聞きしました。音楽の視聴スタイルに変化が起こっているいま、コンピレーション・アルバムを出すことの意義とは?

橋本:実は僕自身は昔とそれほど変わらないリスニング・スタイルなんです。リスナーとして、毎週レコード屋さんに行ったり、CDショップに行って新作を買い、それに付随する旧譜やリイシューものを買って聴いたりしているだけなので。そんな僕に語る資格があるかどうか分からないですが、やっぱりこれだけインターネットが発達している世の中だと、作品を出すだけではレコードやCDを手に取ってもらえないというような状況であること自体は分かります。しかし、伝えたいことや作るものは昔と全く変わっていなくて。すごくシンプルに、自分の好きな曲をどうすればいちばん聴いてもらえるかな、というテーマ設定のもと、自分の聴きたい順番で並べて作品にしています。いろいろな人にアドバイスをされて、YouTubeのトレーラーを作ったり、DOMMUNEに出てみたり、プロモーションの仕方は少し昔とは違いますが。ただ、僕は全然そういうのが得意ではないので、もう探り探り、やる意味があると思えるものはできるだけやるというスタンスです。僕は最終的にはレコードやCDを手に取ってもらいたいし、そこで表現している世界観まで辿り着いてもらうために、それらをやっているという感覚なんですよ。

ーーレコードやCDを手にとって、アートワークにも触れてほしいですよね。

橋本:僕はできたばっかりのアナログやCDは、しばらく部屋に飾ります。『Good Mellows』のシリーズはFJDによる描きおろしのアートワークが本当に素晴らしいですからね。それで実際に部屋の雰囲気が変わったりもして。そういうモノとしての良さも伝え続けていきたいという気持ちがあって、その良さを伝えるためにやらなければいけないことが、昔とは変わったということなのかもしれないですね。

――わたし自身、Apple Musicを使うようになってから、むしろレコード欲が高まりました。実際、若いひとがレコードを集めることが、カルチャーとしてまた少し盛り上がりつつあるみたいですね。

橋本:それは歓迎ですね(笑)。どうしても日本のレコード会社は新しい聴取方法をライバルとして捉えて規制する方向に動きがちだけど、逆にそういう新しいメディアを利用してレコードやCDが売れるようにできたらいいな、といつも思います。YouTubeがあるからレコードやCDが売れないとか、サブスクリプションがあるから売れないということじゃなくて、そこを入り口にして音楽が好きになった人に、フィジカルをどう届けていくか。すごくマニアックなものだけじゃなく、日常やライフスタイルと結びつけて提案することによって、購買意欲が湧くひとたちもいるだろうし。「これはハウスのすごくレアな12インチなんですよ」とか、「これはアンビエントの伝説的なアーティストの曲ですよ」というよりは、『Good Mellows』で提案するように、「海辺で聴くと気持ちがいいですよ」というところから入ってきてくれる人もたくさんいると思うんですよ。

――『Good Mellows』シリーズは、空間やシチュエーションを重要視した作品とも言えますよね。

橋本:海辺をドライブしているときでもいいし、コテージみたいなところでもいい。ちょっと緑をジャケットに入れてもらったんですけど。そういうほうにライフスタイルを広げていきたいんですよ。お金のかかったリゾートとは違う、“シティ・ミュージックの海辺版”的な感じというか……カジュアルにということですかね。贅沢としてのリゾートではなくて、日常の延長にある自然、アウトドア、オープンエア、車の中、そんな場所を意識しています。

――ライフスタイルという部分でいうと、橋本さんはカフェ経営など音楽以外の活動もされています。

橋本:やっぱりそれも、音楽を空間と一緒に楽しみたいというか。もちろん、本やパソコンでその作品やアーティストについて調べて、いろいろなことが詳しく分かって嬉しいという音楽の楽しみ方も当然あるわけだけれど、僕が選曲やコンピレーションCDで表現したいのは、時間を演出したり、空間を演出したりする方向なんです。だから曲順やジャケットが重要になってくるし、タイトルからどんなイメージが広がるかとか、そういうこともすごく重要で。“雰囲気が大切”というと、「雰囲気でしか聴いてない」と言って怒るお堅いマニアや評論家もいますけど、「雰囲気を聴かないで何を聴くんだよ」という気持ちもあるんです(笑)。

――昨今のフェスの流行などを見ていると、その空間も含めて音楽を楽しむという文化も、ずいぶん定着したように感じます。

橋本:ささやかながらも幸せな気持ちになったり、楽しくなることのほうが、みんな好きだろうから。そういう意味では、僕の中ではカフェ・アプレミディも重要です。自分がいて心地よい空間や心地よい時間というのは、人それぞれにあると思うのですが、僕の感じる心地よさはカフェという空間で表現されるものだったんです。そして、そこで鳴っていてほしい音楽が<Apres-midi Records>シリーズになった。その流れでいうと、ここ3年くらい、春から秋くらいまでは海に行くことが多かったので、自然に『Good Mellows』のような作品が生まれたということなんです。実際にその雰囲気を、普段の東京のクラブやバーやカフェで選曲をするときにも持ち込んで、それをCDにすることによって、ずっと残せて繰り返し聴けるわけで。音楽は香りと一緒で、いちばん思い出と結びつきやすく、記憶が蘇りやすいものらしいんですよ。たぶん僕は、そういうものが作りたいんだと思います。

(取材・文=松田広宣)

■リリース情報
『Good Mellows For Sunrise Dreaming』
発売日:4月20日(水)
価格:¥2,160(税込)

『Cantoma For Good Mellows』
発売日:3月23日(水)
価格:¥2,160(税込)

『Good Mellows』シリーズ
『Cantoma For Good Mellows』

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる