Fly or Dieのライブは、めくるめく“メイキャップ・ショウ”である 矢野利裕がツアー初日をレポート

Fly or Dieツアー初日レポ

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Dar'k~nessと鈴木このみ

 このように考えると、つくづく「しもべ」(キャンタマコ)の存在は貴重だ。彼女の身振り手振りは、観客にとって良い導きとなる。いや、個人的には、なにより彼女の満面の笑顔がグルーヴィーだ。「しもべ」の存在によって、Fly or Dieのパフォーマンスは説得力を増す。この日、飛び入り参加して堂々たる舞台人としての振る舞いを見せた鈴木このみとともに、見事な身体の動きである。また、観客を踊らせるという点で面白かったのは、ライブ中盤で披露された「ロンリーワルツ」だった。ヴィジュアル系の世界観にふさわしい、舞踏会をイメージさせるこの三拍子の曲は、先述のグルーヴィーさとは違ったかたちで観客を踊らせる。だとすれば、なるほど、ダンスバンドとヴィジュアル系的な世界観との結節点で生まれたのが「ロンリーワルツ」ということか。この曲の重要性も、ライブで初めて理解した気がした。「ロンリーワルツ」におけるミカ様(魅蛙(Key.))のキーボードが、耽美的な世界観を見事に彩っていた。いや、「ロンリーワルツ」に限らない。あらゆる楽曲から曲間のMCに至るまで、ミカ様のキーボードはつねにその曲の世界観を演出していた。そうなのだ。いままで述べてきたさまざまな曲に対して、そのサウンド的なイメージを支配していたのは、ウワモノであるキーボードを担当するミカ様だったのだ。だから、ライブで初めて理解したことはもうひとつ。実はFly or Dieというバンドの本質は、ミカ様なのではないか。いちばん奥で、誰よりも真っ白に化粧しているミカ様こそ、Fly or Dieの核心なのではないか。つまり、こういうことだ――Fly or Dieの本質とは「化粧」である! そもそも多彩な音楽性をもつFly or Dieは、その都度、音楽的な「化粧」を施す感覚で、ユニークなグッド・ミュージックを披露するのだ。音色を自由自在に変えることができる多機能キーボードは、その音楽的メイキャップにおいて、重要な役割を担っている。音楽的にもルックス的にも、Fly or Dieの「化粧」の中心にいるのはミカ様に他ならない。

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 同じことはもちろん、歌詞についても言える。今回のライブのオープニングは、Fly or Dieの出発点となった「Virgin Marry~聖母マリア~」だったが、この曲は、母親とのマンガ的なやりとりを仰々しく表現した歌詞である。つまり、「お母さん」に「化粧」を施して「聖母マリア」に仕立て上げるというのが、この曲のコンセプトである。そもそもこの曲は、「お母さん」というタイトルで、マキタ学級のアルバム『マキタスポーツの金もうけ』に収録されていた。メンバーの「化粧」とともに、曲名にも「化粧」を施されたということだ。また、鈴木このみとの「残響FANATIC BRAVE HEART」も、目玉焼きに醤油をかけるかソースをかけるかという談義が、「ジハード」にまでメイキャップされている。メンバーのルックスと同様、サウンドや歌詞にも「化粧」は貫かれているのだ。

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Fly or DieとJin-Machine

 Fly or Dieを単なるヴィジュアル系のパロディ・バンドだと捉えてはならない。ライブを見て、ますますそう思った。端的に言うなら、Fly or Dieとは「化粧」を施したダンスバンドである。ここで言う「化粧」の意味は深い。「化粧」とは、ひとつの強固な世界観であるとともに変幻自在の顔でもある。ライブ後半では、「世界にひとつだけの花」をパロッた「世界中にある花」という曲を披露していた(メロコアのようなアレンジが、10年くらいまえに流行った凡百のパンク・カヴァーを想起させて笑った)。「世界中にある花」であることを自覚しつつ、ほんのつかのま「世界にひとつだけの花」になること。「化粧」は、そのための手段として存在する。音楽的に懐の深いFly or Dieのライブは、音楽的にはむしろ、めくるめくメイキャップ・ショウである。この絶え間ないメイキャップに追走するように、観客は歌い踊っていた。なかでも、「矛と盾」がやはり最高だ。序盤のゆるいレゲエのノリで体を揺らしていると、重いサウンドとともにテンポが2分の1になり、リズムにタメを作らされる。終盤になると、2トーン・スカ的かつ祭囃子的な展開に、観客も狂乱状態になる。いくら「化粧」を施しても、汗だくになって「化粧」は溶けてしまう。動員的な振り付けだろうが狂乱的なモッシュだろうが、身体が動けば汗をかくのだ。幾重ものたくらみの果てにFly or Dieが体現するのは、身体を動かして汗をかくという至極真っ当なライブのありかたであった。「矛と盾」の歌詞には「嘘か誠か」という言葉があるが、したがって、「嘘か誠か」という二者択一はにせの問題なのかもしれない。だって、ステージと観客席を貫く、あらゆる身体の動きこそがリアルなのだから!

(撮影=Yasuhiro Ohara)

Fly or Dieオフィシャルサイト

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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