高橋久美子×日高央×ヤマモトショウが語る、乙女新党の音楽的魅力

乙女新党『たい焼き』クリエイター座談会

「俺が彼女達に一番歌わせたいなと思ったのが、エモい感じ」(日高)

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――ただ、こういう話で挙げてきたような今のバンドって、みんなシティポップって言われるのを嫌がってたりもするんですよ。もしくはどうでもいいですよ、みたいに言ってたり。

日高:でも、それはいつもそうなのよ。90年代だって、みんなメロコアって言われるのがイヤだったんだから。

高橋:あー、イヤだったろうなー(笑)。

日高:ただ、00年代ってそんなにジャンルで括られることがなかったと思うのね。チャットモンチーだってそうだと思うし。

高橋:まさにそうですね。ロックか、ポップか、それくらいでした。

日高:でも、今はジャンルで言われるようになってる。「メロディック」とか「シティポップ」とか、揺り返してる感じはあるよね。その一方で「アイドル」っていう括りもあるわけじゃない?

高橋:うんうん。

――ここ数年のアイドルって、音楽的には本当にいろんなものが出てきていますよね。アイドルグループという看板さえあれば、どんな音楽性もありになってきている。

日高:ね。中身はもう本当になんでもあり。

ヤマモト:そうですね。

――ヤマモトさんは、そういう今のアイドルシーンをどう見ています?

ヤマモト:僕がふぇのたすをやってたときは、かなりアイドルと対バンしてたんですよ。「アイドルなんですよね?」って言われる瞬間すらあって。

日高:ふぇのたすはそこをあえて狙ってた感じだもんね。

ヤマモト:そうですね。2012年くらいにバンドを始めたときに「アイドルと対バンしていくことによって面白い世界が開けていくんじゃないか」という感覚があって。で、実際、アイドルシーンみたいなところに行って感じたのが、「言うか言わないか」っていうところなんですよ。

――言うか言わないか?

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ヤマモトショウ

ヤマモト:僕らはロックバンドのつもりでやっていたんで「アイドルではないです」と言っていたんです。だけど、アイドルと対バンするし、アイドルファンにとっても面白いものを作りたいです、って。でも、あの時点で「アイドルです」って言えばアイドルになってたと思います。メンバーに男はいましたけど(笑)。

日高:うんうん。でもたぶん通用したろうね。

ヤマモト:それは活動してく中では感じましたね。あと、やっぱりアイドル曲のマナーみたいなものがあるんですよ。それがアイドルファンの間で生まれている。それはやっていく中で勉強しましたね。

日高:様式美だよね。MIX打ちやすいとか。アニソンとアイドルソングって、何でもアリだけど、実はルールがある世界なんですよ。

高橋:なるほど。

――日高さんは、そういうここ数年のアイドル楽曲の流れはどう感じてます?

日高:まあ、やっぱり作り手としてはこれまでの流れとは違うものをやりたいと思いましたよね。だから今回乙女新党の過去の曲も聴いた上で、俺が彼女達に一番歌わせたいなと思ったのが、エモい感じなんですよ。90年代エモみたいな、ちょっと泣きのある歌。なんか天真爛漫でハッピーなだけの曲はちょっとイヤだったというか。

ヤマモト:そうですよね。サビはかなり泣きのメロディだと思いました。

日高:そうそう、そこはがんばって、日高節を入れました。だから「シャララ」が、それをマイルドにしてくれて本当によかった。

高橋:本当ですか?

日高:あそこにエモい歌詞がのってたら、本当に泣きになっちゃうから。

高橋:私も、今回の歌詞に関しては、乙女新党さん達の他の歌詞を見て、わりとアイドルって感じのが多かったので、それとは違うものにしようと思ったんです。「人生って楽しいだけじゃないし、雨が降ってても、虹が出なくてもいいやん」みたいな。

――ただハッピーなだけではない。

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高橋:そう。でも「とにかく元気にいきましょう」というフレーズに、悩むことも嫌なこともたくさんあるけど、とにかく食べて元気に明日も頑張ろうという思いを込めたんです。逆に言うと、とにかく元気であれば少々勉強はできなくても、失敗ばっかでもいいじゃないっていう。大丈夫大丈夫、元気だったら雨が降って濡れても、虹が出なくても、泣くことがあっても何度だってやり直せるからっていう肯定の思いを込めて書いたんです。でも、こないだライヴで実際の乙女新党に会ったら、全然2軍じゃなかった。めっちゃかわいいやん!って(笑)。

日高:そうだね。1月にラフォーレ2daysがあって、いろんなアイドルがいっぱい出るオムニバスライヴで。そこで俺も観たんだけど、すごかったね。

高橋:めっちゃかわいかったんですよ。

日高:しかも俺が行った日はトリだったから、お客さんの盛り上がりもすごくて。モッシュも起こってたし、まだ発売してないのに、もうすでにこの曲でMIX打ってるんですよ。

高橋:へー!

日高:あれを観た瞬間にMIXの意味がようやくわかった。合いの手とかコールとかだと思って「何がミックスやねん」って思ってたんだけど、「ああ、そうか。曲と掛け声がミックスされてんだな」って。

高橋:掛け声が入ってこそ、曲が完成なんですよね?

ヤマモト:そうですね。あれがすごいと、なかなか感動しますよ。ファン同士でMIXを競いあってるようなところもある。

日高:ヤマモトくんが見た今までで一番すごいMIXってある?

ヤマモト:個人的なレベルの話なんですけど、僕、寺嶋由芙っていうアイドルに曲書いてるんですね。で、ゆっふぃーがライヴでマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」をカバーしてるんですよ。そうしたら、普通はMIXって「タイガー! ファイヤー!」って言うんですけど、その曲だけやたら英語の発音がいいんです。「Tiger! Fire!」って。たぶん洋楽だから(笑)。

日高:MIXもそれにあわせてるんだ(笑)。

ヤマモト:そう。「わー、センスあるなー」と思いました(笑)。

――日高さんは、そういうアイドルファンのムードはどんな風に見ていますか?

日高:俺は最近だとBiSくらいからアイドルに関わっているんですけど、実はそれ以前からアイドルには楽曲提供してるんですよ。そもそもメロン記念日に曲書いたのが始まりだったから。

――そうか、あれが2009年の頃でしたね。メロン記念日×BEAT CRUSADERSという名義で「DON'T SAY GOOD-BYE」をリリースしていた。

日高:そのときはモーニング娘。という巨大なスターがいて、その陰でメロン記念日は2軍的な扱いを受けてて。で、「メロンの方がいいよね」みたいなこと言ってたら、意外とバンド側にもそういうやつが多かったんだよね。それで盛り上がって、「みんなで曲を書こう」みたいになった。そこから「メロン記念日ロック化計画」みたいのが始まって、それの第一弾だったんです。

――その年にビークルが夏フェスに出た時にも、たしかサプライズゲストでメロン記念日が出てきていたと思うんです。でも、あのときのロックフェスのお客さんはアイドルに対して総スカンだった。

日高:そうそう。あんまり盛り上がってくれなかったな。あと、ちょっと怒られた(笑)。

――2012年にふぇのたすがデビューした頃はもう、ロックフェスにアイドルが出るようになってましたよね。だからその3年くらいの間に何かがあった。

日高:何があったんだろうね、一体(笑)。

ヤマモト:ただ、その当時も、僕らみたいなロックバンドがアイドルイベントに出ることに対しては、まだ抵抗がありましたね。それは僕らのファンからもそうだし、アイドルファンからもそうだった。でも、その後1~2年やってくなかで、どんどん変わっていきましたね。どっちもアリになった。

高橋:アイドルがどんどん認められてきとるってことなんですか? それは。

日高:そうじゃない? 楽曲的にも、実力的にも。その変化は確かに大きいかもね。この10年くらいで。だから今はTHE STARBEMSが乙女新党と対バンしてもアリかもしれない。

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