2015年の『紅白歌合戦』は音楽をどう届けたか? 太田省一が番組の演出を振り返る

 また、初めて司会を務めたV6・井ノ原快彦について、同氏はこう評価する。

「井ノ原の進行に関しては『安定』の一言に尽きます。2013年時には“天然キャラ”で世間を騒がせた綾瀬はるかも、井ノ原のスムーズで気配りのこもった番組運びで、格段にリラックスした様子でした。他方、総合司会を務めた黒柳徹子は、天童よしみがカバーした美空ひばりについて語ったり、今年で『紅白』からの勇退を表明している森進一と最後に抱擁を交わしたり、また美輪明宏『ヨイトマケの唄』の前に戦後の思い出を語ったりと、『紅白』と戦後を見てきた当事者として番組を支えていました」

 同氏が裏テーマとして注目している“戦後70年”というワードについては、演出ではなく選曲にそれがあらわれていたのではないかと読み解く。

「天童よしみが美空ひばりの『人生一路』をカバーした際には美空を偲ぶ映像が流れ、SMAPは戦後60年の放送回で最初に歌われ、その際足元に“PEACE(平和)”という字を模したライトを使う演出のあったテーマ性のある楽曲『Triangle』をこの戦後70年、震災からまもなく5年の今回にも歌いました。さらにMISIA『オルフェンズの涙』や美輪明宏の『ヨイトマケの歌』、今井美樹の『PIECE OF MY WISH』、石川さゆりの『津軽海峡・冬景色』、五木ひろしの『千曲川』などなど、表立った派手な演出こそなかったものの、さまざまな側面から戦後70年の歩みを想起させるような楽曲が要所に配され、“わかる人にはわかる”ものにしていた印象です」

 最後に太田氏は、今回の『紅白』に顕著だった傾向と、番組の今後についてこう述べた。

「初出場組では、星野源や大原櫻子、乃木坂46など、しっかりと歌を聴かせるアーティストや演出・選曲が多かったのも今回の特徴ですね。また小林幸子の演出は『これからボーカロイドがアーティストとして出演するのでは』という興味を抱かせるとともに、『紅白』がさらに幅の広い音楽番組になっていく将来を予感させてくれるものでした。今後も、エンターテインメントとしての祝祭感をある程度持たせながら、音楽シーンを網羅した唯一の歌番組、そして日本のテレビ史においても他に類をみないビッグコンテンツとして、視聴者を楽しませてくれることを期待します」

 時代に合わせてその形を変えながら、国民的歌番組としての間口の広さを保ち続ける『紅白』。今後は最新の技術や若者向けのアプローチを取り入れながら、どのように進化するのか。引き続き番組の動向を注視したい。

(文=編集部)

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