MURO×渡辺宙明が語る、ヒップホップと特撮・アニメ音楽の共通点「どの作品も実験的」

MURO×渡辺宙明、特撮アニメ音楽対談

「結局は大人が聴くんだ、ということが初めから分かっていた」(渡辺)

20160101-mr6.jpg

 

ーー今回のアルバムに収録されている渡辺さんの楽曲について、一曲ずつ話し合っていただきます。まずはM5.「侵略のテーマ」について。これは『エキセントリック・サウンド・オブ・スパイダーマン』からの一曲です。

MURO:当時のレコードを見ると、曲ごとに解説がついているのがすごいですよね。「ティンパニーのロールのグリッサンドで始まり、それにウッド・ブロック、ビブラスラップなどの音がからまり、中段からティンパニーとマリンバがかみ合って、正邪の対決を物語ります」(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)って。子供が読んでも絶対に分からないですよね(笑)。

渡辺:レビューはライターの方が書くこともありますが、その時期はレコード会社のディレクターから僕に依頼されることもよくありました。一般のライターだったら別の観点から書いたでしょうが、作曲家として書く以上は、楽器の使用法から書きました。これも結局は大人が聴くんだ、ということが初めから分かっていたんですよ。

ーーM9.「嵐を呼ぶ選抜試合」とM28.「天下無敵のガキ大将」については。

渡辺:どちらも『おれは鉄平』(1977)の曲ですね。真剣勝負の物語だったので、ちょっと行き過ぎたかもしれないけれども、ロック的というか、ビートの利いた音楽がわりと多いです。

MURO:僕、これはレコードで持っていなかったので収録できることになった時は感動しました。この前、CDでリイシュー(再発盤)されて。MIX CDに収録されている音源は、リイシューCDを使わせていただきました。ドラムのソロの部分だったりとか、あまり音が重なっていないところを探す習慣がヒップホップにはありまして。それで聴くと、この曲はすごいいいドラムだったんですよね。レコードは、地方も含めて探し回りましたが見つからなくて。

--リイシューCDが初商品化とのことです。主題歌しか当時のLPはないみたいで。

MURO:やっぱり、蔵出しなんですね。「天下無敵のガキ大将」もグルーヴが気持ちよくて、ループしてずっと聴いていたい気分になります。

渡辺:この曲は思い切ってロック的に、そしてメロディーはちょっと戦闘的にする、という風に作りました。この漫画の表紙のイメージでは喜劇的な印象がありましたけど、真剣に戦う剣道のお話でもあるので、そのイメージに合わせてサウンドを作りました。剣道にロックを使うというのもどうかと思うけど、絵にぴったりすぎる音楽は印象に残らなくなってしまいます。私の場合は、少々絵から飛び出してもギリギリ合っていて、音楽だけを聴いても楽しいところにもっていきたい、という気持ちがあって。最近のアメリカ映画のように、絵には合っているけれども音楽の印象が残らないような、意図的に音楽を押し殺しながら入れていくというやり方もありますけど、僕はそういう方法はあまりとらないんですよ。アニメの場合、だいたい半年から1年くらいは溜め録りしますから、選曲者が何とかやるだろうと、面白そうな曲をいっぱい作っておくやり方をしていました。でも、それが良かったんでしょうね、この世界では。ぴったりと密着したような音楽だと、絵には合うし監督さんも満足するかもしれないけれども、何十年もたって、再発売され、演奏会でも取り上げられる、というようなことは少ないのではないでしょうか。

ーーM.19「正義の旗のもとに」は、冒頭でも話があった『組曲「バトルフィーバーJ」オリジナル・サウンドトラック』からの一曲です。レビューを引用してみましょう。

 5人のヒーローたちは若いエネルギーにあふれている。彼らはオートバイや乗馬が得意であり、事件のない時には、郊外に繰り出して青春を謳歌する。トライアングルとカウベルによるサンバ調のリズムに乗って、突然ピアノがグリッサンドで降下すると、弦楽器群のユニゾンによってきらめくようなフレーズが聞く者を圧倒する。続いてラテンソウルのリズムが躍動する中を、弦楽器群がうねりながら、青春の歌を華麗に歌い上げる。
 だが敵エゴスは、その間にも着々と地球侵略の計画を練っているのだ。リズムセクションが執拗に反復するフレーズをバックに、チェロ等の低音部が不気味に鳴る。
 悪の計画がクライマックスに達した時、いち早くそれをかぎ付けた5人が突然姿を現したのだ。ドラムが緊迫したビートで迫ると他のリズムセクションがそれにからむ。息詰まるような対決の中で、遂に金管群が炸裂する。バトルフィーバー隊対エゴス怪人の痛快極まりない大乱闘である。5人はそれぞれ得意の剣技を使って、チームワークよろしく群がる敵を手玉にとるのだ。(渡辺宙明氏によるレコード掲載レビューより)

MURO:ヒップホップの楽曲では、正義の味方のテーマより、悪者のテーマのほうが圧倒的に多いと思うんですね。この曲にはそうした悪い要素も入っているのがいいですね。

渡辺:マーチ風な曲もあることはあるんですけど、どちらかと言うと少ないですね。『ウルトラマン』の主題歌なんかは出端からマーチ風でしょ。それを最初に聴いたときに、僕だったら違うやり方をするかな、と思ったんですね。正義の味方でも、ちょっとこう、影があるという感じで。それとね、この曲もですが、BGMの場合は僕が付けた題名と違うものになっている場合があるんです。

MURO:そうなんですね。

渡辺:レコードの場合は、ライターか、あるいはディレクターが付けてしまうことが多いんですね。M1、M2ではなく、題名を付けておかないと。だからもともと「正義の旗のもとに」というテーマで作った曲というわけではないんです。

MURO:解説を見ると、この時点で「ラテンソウル」というジャンルが出てきていますね……すごいなぁ(笑)。

渡辺:あと、この頃は……そうそう、『サタデー・ナイト・フィーバー』という映画がヒットして、そこからヒントを得て“フィーバー”と付いたんです。

MURO:その“フィーバー”だったんだ。ヤバいっすね(笑)。

渡辺:『バトルフィーバーJ』(1979)は、初めの企画で、踊りながら戦うという設定だったんですね。それでやってみると、やっぱり踊りながらでは戦えないので、音楽だけでも踊るような感じにしてくれ、と言われて。日本、フランス、アメリカ、あとはその他の国でということでしたが、フランスの代表的な音楽で戦う雰囲気というのは難しかったので、フラメンコ風なスパニッシュにしましたけど。だから、『バトルフィーバーJ』は今回のようなMIX CDに合う楽曲が多かったのかもしれません。面白い企画だったと思いますね。

MURO:貴重なお話ですね、すごく面白いです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる