AKB48の「365日の紙飛行機」が持つ、新たな代表曲としてのポテンシャル

 しかし、2015年のJOYSOUNDランキングでは「恋するフォーチュンクッキー」は18位に後退。ここ数ヶ月のランキングを見ても、その後を担えるような楽曲は登場していない。

 一方、「365日の紙飛行機」は、リリース週のiTUNESランキングではback number「クリスマスソング」、浦島太郎 (桐谷健太)「海の声」に続く3位を記録。前述の「Billboard JAPAN Hot100」チャートでもダウンロード数がポイントを押し上げ、総合6位となっている。AKB48でこういう売れ方をする楽曲は稀だ。

 そして、ダウンロード購入者は若年層が比較的多いと思われるが、この「365日の紙飛行機」はむしろスマートフォンで音楽を購入する習慣のないような中高年層にも届く曲調となっている。

 アコギとストリングスを主体にしたサウンドに、8分音符主体の歌いやすく親しみやすいメロディー。70年代のフォークソングにも通じる、かなり素朴な曲調だ。コード進行もシンプルである。G→D/F#→Em7→Dという下降クリシェを用いた進行が、Aメロでもサビでも共通して使われている。

 さらにポイントになっているのが、AメロもサビもC→D→Gという終わり方になっていること。キーはGなので、サブドミナント→ドミナント→トニックという、まさにヒネリのない王道の進行である。そこに、まるで童謡のようなメロディの節回しで「明日頑張ろう」「さあ心のままに」「ああ楽しくやろう」という言葉を歌う。サビの終わりの「365日」というのも同じ節回しだ。

 もちろん、これは朝ドラの主題歌ということを最大限に意識しているがゆえの曲調だろう。つまり、コード進行やメロディの節回しなど、全ての選択肢において、わかりやすく、ベタな方を選んだ結果が、この曲の特徴になっている。「人生は紙飛行機」と歌う歌詞のテーマもそうだろう。

 徹頭徹尾、ベタである。でも、そうであるがゆえに、売れる。そういう曲が「365日の紙飛行機」であるのだが、しかしこれをカップリングに収録するというパッケージングだけが、ベタでない選択肢だった。

 もちろんAKB48自身のストーリーを考えれば、初代総監督・高橋みなみの卒業という大事なタイミングでもあり、いろいろと優先すべき事項は他にあったのだろう。しかし、次世代のエースであり来年の総選挙1位が目される山本彩が初めてセンターをつとめるこの曲が恋チュンに次ぐ国民的ヒット曲に育つかどうかは、グループの未来自体を左右するような大きなポイントではなかっただろうか。

 ちなみに、今では坂本冬美の代表曲の一つになった「また君に恋してる」は、シングル「アジアの海賊」のカップリングとしてリリースされた1曲だった。果たしてこの「365日の紙飛行機」もそうなっていくだろうか。まずは年末の紅白歌合戦が見所だ。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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