寺嶋由芙が“ゆるキャラとの架け橋”に アイドルとしての「芯」を見せた代官山UNIT公演レポート

寺嶋由芙&ゆるキャラが見せた「芯」

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 そもそも「contrast」は、BiS脱退後の寺嶋由芙が初めてソロでオリジナル曲だけのライブを行った、2013年10月22日の渋谷duo MUSIC EXCHANGEでの『アイドル・フィロソフィー Vol.3』で歌われた楽曲のひとつだ。当時の寺嶋由芙の持ち曲は、「サクラノート(現『#ゆーふらいと』)」、「ぜんぜん」、「好きが始まる(現『好きがはじまる』」、そして「nip(現『contrast』)」の4曲のみ。「nip」はそのなかでも“沸きづらい”楽曲だったが、2013年11月30日に新宿MARZで開催された『たぬきナイト』で、対バンであるTAKENOKO▲、ゆるめるモ!、BELLRING少女ハートに負けないために、ファンが強引に盛りあがるスタイルに変化した。その後、何が言いたいのかさっぱりわからない「言いたいことがあるんだよ!」コールも導入されていく。書き出してみると馬鹿馬鹿しいのだが、こうした歴史の蓄積ゆえに盛りあがる楽曲なのだ。

 マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」は、PandaBoYの編曲で90年代テイストに。ファンの打つMIXも、通常なら「よっしゃいくぞー!」の部分が「Here we go!」になっており、しかも英語の発音が良くなっている。MCで寺嶋由芙は、「ヒロインになりたい」以降の流れについて、「こういうアイドル現場の熱量も感じてほしくて歌いました」と明かした。

 そして、「大好きなゆるキャラ、アイドル、オタクたちをつなげたいので、ゆるキャラファンさんでも知っている曲を歌おうと思います」とハロー!プロジェクトのカヴァーコーナーへ。メロン記念日の「赤いフリージア」、松浦亜弥の「気がつけば あなた」、藤本美貴の「ロマンティック浮かれモード」が歌われた。最後の「ロマンティック浮かれモード」では、ファンによる土下座、マワリ、ダッシュケチャなどが展開され、ダッシュケチャのためにフロアが縦に割れたときには、ウォール・オブ・デスでも始まるのかと思うような雰囲気だった。

 その後、有明ガタゴロウが登場して、ちょうせい豆乳くんが代官山UNITまで走っていると言うので、応援のためにZARDの「負けないで」を歌うことに。ふっかちゃん、うなりくん、しんじょう君、オカザえもん、ササダンゴン、ペッカリー、みっけ、カパルも登場して、いきなりステージ上の空間が埋まっていく。「負けないで」ではファンがMIXを打っていたが、オカザえもんもMIXを打つ動きをしていたことを私は見逃さなかった。フロア後方からちょうせい豆乳くんが走ってきてステージにゴールインすると、今度は谷村新司と加山雄三の「サライ」を歌うという茶番も展開された。

 寺嶋由芙のライブ中に撮影タイムが用意されたのは珍しいが、それもゆるキャラ文化圏が撮影フリーだからだ。この日は多くのゆるキャラファンが来場していたが、基本的に無銭文化圏であるゆるキャラのファンを呼べたことは、実は驚くべきことでもあった。

 全10体のゆるキャラが揃っての「いやはや ふぃ~りんぐ」では、ゆるキャラの名前が織り込まれた複雑なMIXがファンによって叫ばれていた。「いやはや ふぃ~りんぐ」は、DiVA(AKB48)の「泣ける場所」も手掛けた鶴崎輝一が作編曲した楽曲だ。

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 寺嶋由芙とゆるキャラによるユニットのコーナーでは、まずヤマモトショウ作詞作曲の「ゆる恋」が歌われた。身体の可動性が特に高いオカザえもんが、必死に振り付けを真似ようとする姿が健気だ。ジェーン・スー作詞、rionos作編曲によるサード・シングル「猫になりたい!」では、ケチャでファンが前に押し寄せる事態に。アイドルとゆるキャラとヲタ芸が同居するカオスな光景となった。ミナミトモヤ作詞作曲の「好きがはじまる」は、寺嶋由芙現場のアンセムだが、その楽曲もゆるキャラとのコラボレーションで歌い踊られた。「好きがはじまる」も最初期からの楽曲だが、こういう展開は予想もしていなかった。そして、<今度はどこにも行かないから>という歌詞の<行かないから>の部分でファンはいつも大合唱するのだが、その日は遂に代官山UNITの規模で歌われた。

 ジェーン・スー作詞、rionos作編曲のセカンド・シングル「カンパニュラの憂鬱」は、再びゆるキャラ10体とともに歌い踊られ、ステージ上とフロアでサークルモッシュが起きていたほか、沖縄発祥のヲタ芸「らいおん。ブレード」も発動されていた。もう生身の人間とゆるキャラと地域性が錯綜しすぎである。

 MCで「大切なお知らせ」があると寺嶋由芙が言うと、「やめないでー!」とお約束の声が上がった。その「大切なお知らせ」とは、2016年3月にアルバムが発表されるというもの。寺嶋由芙はこれまで『好きがはじまる』『好きがはじまるII』という2枚のライブ会場限定ミニ・アルバムをリリースしており、必然的にフル・アルバムへの期待も高まるというものだ。

 しんじょう君がギター、カパルがベースを抱えて登場したのには意表を突かれたが、さらに「ゆるキャラによるチューニング」という珍しい光景まで見た。兵庫慎司もびっくりである。

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