柳樂光隆×唐木元が語り合う、『Jazz The New Chapter』が提示した“新しいサウンド”の楽しみ方

唐木元&柳樂光隆が語り合う“ジャズの革新”

「5連符や7連符を使ってヨレを分析する人が出てきた」(唐木)

唐木:そうすると、ヒップホップによるサウンド面の拡張として、ひとつには「ヨレたビートの導入」というのが挙げられるね。

柳樂:分かりやすい例として、ホセ・ジェイムスが昨年リリースした『While You Were Sleeping』から「U R The 1」を掛けてみましょう。ドラマーはリチャード・スペイヴンというイギリス人。

【Jose Jamas「U R The 1」】

唐木:これ、1曲通して同じヨレ方を続けられるのは異常なスキルですよ。あとマシンによるエコーやスネアロールまで人力で真似っこするという。

柳樂:日本でこういうビートを叩かせたら、mabanuaさんが良いですね。レイ・ハラカミさんがまだお元気なとき、原雅明さんに「原くん、J・ディラのビートみたいな演奏を人力でやっている日本人がいる」と言って、mabanuaさんを紹介したそうですよ。

唐木:いい話。mabanuaさんって、ブレイクビーツのタイム感が完全に身体に入ってるからあんなプレイができるんだろうね。そういう意味ではサウンド面にもうひとつ、「マシンのサウンドを人力再現」というトピックが成り立つと思う。

柳樂:その観点からすると、ネオソウルも拡張に使われたジャンルとして入れておきたいかな。先ほど話したコモンのアルバムと同じ2000年に、ディアンジェロが『Voodoo』というアルバムを出していて。この作品でもJ・ディラがわざとヨレた気持ち悪いビートを作って、それをザ・ルーツのドラマーであるクエストラブに叩かせている。

唐木:「酔っぱらってるみたいにに叩いてくれ」って指示したエピソードは有名だね。

柳樂:ディアンジェロとJ・ディラのやっていたことって、当時は具体的にどこが変なのかがわからなかったし、「酔っぱらってるように」みたいなフィーリングでしか語られていなかった。でも最近のジャズミュージシャンは、バークリーやニュースクールといった名門音大で学んだ人が多くて、この「酔っぱらっている感じ」も理論化しつつあるんです。

唐木:5連符や7連符を使ってヨレを分析する人が出てきた。こないだ富山で冨田ラボさんとトークイベントやったんだけど、やっぱりその話題になりました。

柳樂:“人間ができないこと”をやるためのプログラミング音楽に、人間が追いついてしまうという。ただ、先にマシンがそれを実体化していなかったら、人間も叩こうとは思わなかったでしょうね。評論家の村井康司さんが言ってたんですけど、「100メートル走で記録を大幅に更新するような奴が出現すると、少し経ってから他の選手が差を縮めてきて、勝つことすら起きてくる」と。

唐木:マシンや誰かが具現化してくれると、そんなこともできるんだ、って意識が変革するんだろうね。さてホセ・ジェイムズからもう1曲掛けたいんだけど、このアルバムで驚かされたのは、ジャズなのにギターがすごい歪んでるっていう。

【Jose Jamas「Anywhere U go 」】

柳樂:これに関してはインタビューで訊いてみたんですが、彼はロックをやりたかったわけじゃなく、新しい音響をジャズに取り入れたくて、たまたまギターをフィーチャーしたと言っていた。ホセ自身が目指していたものは、ジェイムス・ブレイクみたいな音の揺らぎだったようです。

唐木:いわゆるポストロック的な音楽から「音響への意識」を取り入れたんだと。ポストロックは3つ目の拡張ジャンルといえそうだね。僕がこのアルバムにガツンとやられたのもその部分が大きかったと思う。もともとジャズミュージシャンの作った音楽って音響への配慮が欠けてるというか、音色がダサいという先入観があったから、それが吹き飛ばされました。

柳樂:ホセのバンドは趣味の広い人が多くて、メンバー同士でおすすめの楽曲を回し聴きしていると言っていました。だからこのギターも誰かからの影響なんじゃないかな。そんなホセのバンドにボーカリストとして参加していた、ベッカ・スティーヴンスの「My Girls」という曲を掛けてみたいと思います。これはポストロックのバンド、アニマル・コレクティヴのカバー。原曲と比較して聴いてください。

【Becca Stevens Band - My Girls [Animal Collective cover]】
【Animal Collective - My Girls】

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる