映画やドラマで流れる「劇伴」はなぜ“繰り返し”が多い?『タイタニック』などのヒット作から解説

グリーグ:組曲「ペール・ギュント」~ 「朝」:カラヤン/BPO

 上記の演奏動画において、分かりやすく大きく捉えて「15秒」までを一つとすると、「15秒から24秒」まで、ほとんど同じメロディがもう一度繰り返される。さらに「25秒から34秒」「35秒から44秒」「45秒から54秒」と、少しの変化はあるが基本的には同じ要素を繰り返しており、55秒以降は、この要素が盛り上がって再度使われる。開始から約1分間を取り上げただけでも、これほどまでに「繰り返し」が使われているのだ。

 続いて「主要なテーマのメロディを同じ映像作品の中の他の劇伴で用いる場合」についてだが、同じ映像作品の劇伴では、テーマのメロディの一部を使って他の曲を作る「テーマアレンジ」という手法が頻繁に用いられる。この手法を使うことによる利点は「1つの映像作品の中で劇伴全体に統一感を出すことが出来る」からだ。こと映画の劇伴では、2つや3つだけのテーマをもとに、大半の楽曲ができているケースも多く存在する。

 こういったケースでは、サウンドトラック盤に収録されている全数十曲を意識的に聴くことで、同じテーマのメロディがアレンジされて別の楽曲に使われていることが分かるはずだ。こちらの具体例としては、1988年公開の人気イタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の劇伴を紹介したい。いくつかのテーマが巧みにアレンジされて楽曲が出来上がっている、非常に優れた例といえるだろう。

 また、ほかの利点として、劇中で繰り返し聴いていたテーマが物語のクライマックスで感動的なアレンジで使われると、大きな感動を呼ぶ効果が期待出来ることも挙げられる。これが非常に効果的であることは、アニメファンなら共感してくれることだろう。劇伴関係者も「少しづつメロディを積んでいくことを利用して山場でも使用することで、音楽で感動を生み出すことが出来る」と話す人が多い。

 テレビアニメやテレビドラマなどに多い「連続もの」の映像作品だけでなく、「単発もの」である映画などでもこの例は見られる。具体例として、大ヒット映画の『タイタニック』では、セリーヌ・ディオンが歌う主題歌からアレンジされたとみられる劇伴が映画の中で何度も姿を変えて使用されるが、終盤で「レオナルド・ディカプリオが演じるジャック・ドーソンが海に沈んでいくシーン」ではヴォカリーズ風のアレンジで再度使用され、恋人との切ない別れを感動的に演出したことなども記憶に新しい。

 これは前項で述べた、「繰り返し同じメロディを聴くことで、聴き手の中にその部分に対する愛着がでやすい」という内容にも関連しており、(1)と(2)がバランス良く取り入れられていることが、作品に相乗効果をもたらす、職業作家としての劇伴のスタンダードな作り方といえる。

 以上が劇伴における繰り返しの大まかな考察だ。もちろん、内容はプロジェクトによりケースバイケースであるし、必ずしも上記の内容が全て当てはまっているわけではない。しかし、これを見た方が「繰り返し」=「楽をしている」という固定観念を取り払い、劇伴における重要な要素だとわかっていただければ幸いだ。

■高野裕也
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。

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