クラムボンが武道館公演で見せた、ミュージシャンシップの高さと“ギャップ萌え”

クラムボン、武道館公演ライブ評

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 時におおぶりなアクションを見せるミトの饒舌に歌うようなベース、音楽専門学校で講師も務める伊藤大助の音量を上げても耳に痛くないドラム、セロニアス・モンクを愛する原田郁子の繊細で柔らかなピアノ。いずれも、セッションから曲を作るレコーディングを経たからこその、音楽的基礎体力を感じさせるものだった。また、ケーブルにこだわるなど、音響面でも様々な工夫や配慮をしたのだろう。空間的な広がりや奥行きに満ち、ノイズも心地良く聴かせる音像は、機材や楽器の特性に精通した彼らならではのものだったと思う。

 セットリストはアンコール込みで全23曲。退場時のSEに使われた「Lightly…」を含めると、最新作『triology』からの曲はすべて披露したことになる。『triology』はミトのデモの精度がこれまでになく高まり、プロフェッショナルな仕事ぶりが光る傑作だったが、ライブでもそうした最新ヴァージョンのクラムボンは全開となっていた。その一方で、「はなれ ばなれ」「シカゴ」といった初期の代表曲をはじめ、「サラウンド」「バイタルサイン」「便箋歌」など、キラー・チューンが惜しげもなく演奏される。こういう、イントロだけで聴く者の胸をざわつかせる曲を数多く持っているバンドはやはり強い。何度もそう実感させられた。

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 そんなライブで最も印象に残ったのは、3人のくだけたMCとタイトな演奏のギャップだ。元々初期は原田郁子の童女めいたキャラクターも手伝い、ゆるふわなイメージもあったクラムボンだが、一旦音を出すとゆるふわどころかバキバキの音を鳴らすバンドである。特にこの日は、そのコントラストが際立っていた。ミトや原田郁子のMCは気さくに客に話しかけるタイプのもので、音楽好きのお兄ちゃんお姉ちゃんといった風情。「バタフライ」を演奏する前にはミトが、“ぶっちゃけ、この曲『triology』でいちばん難しいんですよ”と笑顔で話していた。演者の神秘性や匿名性を保ちたいタイプのバンドなら、そんなことを言ったりはしないだろう。彼らの天真爛漫さはそうした戦略とは無関係なのだ。思えば、インタビューでも彼らはいつも率直で気取らない雰囲気で話してくれていた。その時同様、この日のMCでも彼らは観客との会話を楽しんでいるようだった。それが、一度音を出せば途轍もなく強靭で重厚な音を出して会場を呑み込んでしまうのだ。このギャップこそ、クラムボンのライブの最大の魅力であり、バンドの本質を表しているのではないだろうか。いまどきの言葉で言うところの“ギャップ萌え”か。気さくな語り口と硬質な演奏の鮮やかな対比に魅了された、そんな夜だった。

(撮影=Yoshiharu Ota)

■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa

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