ゆるめるモ!の新作は異端にして剛速球ーー狂気と優しさが同居する完全自主制作盤を読み解く

宗像明将のゆるめるモ!新作レビュー

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『眠たいCITY vs 読書日記』(Official Music Video)

 2015年8月にリリースされた『文学と破壊EP』からは、「Refresh Your Jewellery Box」「夢なんて」「Only You」の3曲を収録している。9曲目の「Refresh Your Jewellery Box」は、YUKIのシングル「好きってなんだろう…涙」も手掛けたHALIFANIE(張替智広+小貫早智子)が作曲した、バンド演奏も心地良いポップ・チューンだ。

 突然の2分間ハードコアである10曲目「KAWAIIハードコア銀河」から、『YOU ARE THE WORLD』は後半戦へと流れ込んでいく。より緩急の激しさが増し、それは最後の「Only You」まで続いていく。11曲目の「よいよい」ではカウベルが躁状態のように鳴り狂う。

 12曲目の「id アイドル」は、後藤まりこが作詞作曲。ゆるめるモ!のバンド編成時のバンマスである、「箱庭の室内楽」のハシダカズマが後藤まりことともに編曲している。<何者にもなれなかった / id id 私はアイドル>とアイデンティティを歌う残酷な歌詞と、AメロからBメロにかけての美しくも儚いメロディー。理想と現実の間でもがく少女の姿を描いたこの楽曲は、同時にとても甘美でもある。

 『文学と破壊EP』収録曲であった13曲目「夢なんて」は、ミドリカワ書房の緑川伸一が作詞作曲。若い世代の倦怠感を描いてる楽曲だ。特に<ヘットヘトよ なんて世界だろ / ヘットへトよ 今を乗り切るので精一杯だ>と歌う部分は、緑川伸一ならではのケレン味が効いている。この楽曲の発売当時、ゆるめるモ!のボイトレの成果も実感した。2014年のファースト・フル・アルバム『Unforgettable Final Odyssey』と聴き比べてみれば、その成長は明らかだ。その成長によって、緑川伸一が楽曲に込めた機微を歌いあげているのが「夢なんて」である。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『夢なんて』(Official Music Video)

 14曲目の「私へ」は、『YOU ARE THE WORLD』における最重要曲のひとつだ。「私へ」と題されているが、この歌詞は小林愛からメンバーへの言葉に感じられて仕方がない。小林愛がメンバーと近づきすぎないようにしていることは、ゆるめるモ!の公式サイトに掲載されているインタビューでも語られていた。そのぶん、その立場から書かれた<今日 伝えたいよ昔の私へ 病める時健やかなる時 / 私で いることを辞めないでくれて ありがとう>という歌詞をメンバーが歌うことは、狂おしいほどの感動をもたらす。ここまで優しさに満ちた楽曲は、これまでのゆるめるモ!にはなかった。『YOU ARE THE WORLD』において生み出された新たな名曲だ。

 その「私へ」の熱を一転して冷ますかのように、15曲目の「もっとも美しいもの」は鳴りはじめる。中村弘二の作編曲によるこの楽曲は、後期SUPERCARを髣髴とさせるサウンドだ。そして、クールなトラックのなかで、彼の作家性とゆるめるモ!というグループの個性が意外なほど共鳴している。

ゆるめるモ!(You'll Melt More!)『もっとも美しいもの』(Official Music Video)

 『SUImin CIty Destroyer』の収録曲であった16曲目「NNN」は、「もっとも美しいもの」から続くにふさわしい静謐さとともに幕を開ける。そこから徐々に昂揚していき、またもとの静謐さへと回帰する展開が美しい。

 『YOU ARE THE WORLD』の最後を締めくくる17曲目は、『文学と破壊EP』収録曲であった「Only You」。『YOU ARE THE WORLD』が行き着いた果ては、ボアダムスへのオマージュだ。極北である。

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