ゲスの極み乙女。、indigo la End、SMAP提供曲……川谷絵音の作曲術の特徴を探る

 ゲスの通算4枚目のシングル「オトナチック」は、サビがAmaj7→G#7(♭9)→C#m7→EonG#→Amaj7→G#7(♭9)→C#m7の繰り返し。キーはEで、<大人じゃないからさ/ 無理をしてまで笑えなくてさ>という歌詞を、ファルセット&リフレインのメロディに乗せている。トニックコードのEでも、ベースは3度のG#を押さえることで、ふわふわとした浮遊感を出しているのがわかる。ちなみにこの3曲、「私以外私じゃないの」、「ロマンスがありあまる」、「オトナチック」の、サビメロの駆け上がり方はとてもよく似ていて、“川谷節”ともいえるオリジナリティになっている。

 続いてインディゴの楽曲を聴いてみよう。通算4枚目のシングル「さよならベル」は、AメロとBメロがツーファイヴの派生形ともいえるオーソドックスなものであるのに対し、サビではA♭maj7→Fm7→B♭(♭9)→E♭→A♭maj7→Fm7→B♭→E♭という具合に、フラット9thを強調したコード進行になっている。とはいえ、このフラット9thは強く主張するものではなく、あくまでもスパイスとして使われている。

 最後に、今年9月にリリースされた通算6枚目の切ない失恋ソング「雫に恋して」。この曲は、イントロからAメロそしてサビまでコード進行がほとんど変わらない。キーはA♭で、D♭maj7→E♭7→F7(9)onG→A♭maj7onCを繰り返す中、メロディだけが変化していく。サビでは、<溢れてしょうがないから><意味もなく声を出すんだ><伝うまま流れるだけ><温度が変わらないままで>の部分がリフレインになっており、3小節目「F7(9)onG」の部分は理論上マイナーキーになるところを、あえてメジャーキーをぶつけて不協和音を導き出している。この、一瞬“違和感”を覚える響きに中毒性があり、何度も繰り返し聴きたくなるのだ。

 レディオヘッドやゆらゆら帝国に憧れて音楽活動をスタートし、ジャズやヒップホップ、プログレ、サイケといった様々な音楽スタイルを貪欲に取り込みながら、自らのオリジナリティを獲得した川谷。ゲスとインディゴという2つのアウトプットを持つ彼が、今後どのような楽曲を生み出してくれるのか。今後も楽しみだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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