メタルの視点から見た、X JAPANの功績とは? ディスコグラフィーと活動遍歴から改めて考える

 そうそう、X JAPANはミニアルバム『ART OF LIFE』を発表する前に、かつてLOUDNESSが所属したアメリカの老舗レーベル<Atlantic Records>と契約。どのような作品を携え海外進出を果たすのかが期待されたが、リリースされたアルバムは先のミニアルバム『ART OF LIFE』と1996年のフルアルバム『DAHLIA』のみ。しかも最終的には欧米でリリースされることすらなかったのだ。その理由はさまざまで、YOSHIKIの身体的故障が長引いたこと、そして彼の完璧主義が災いして制作に時間がかかりすぎたこと、さらに海外向けに英語詞で歌う際のToshIの発音の問題も大きかったと言われている。また資金の問題でレコーディングした楽曲を次々にシングルとしてリリースしていかなければならないことも問題だった。結果、このアルバムからはアルバム発売前に6枚のシングルが、アルバム発売後には1枚のシングルがリカット。10曲中7曲がシングル曲という、半ばベスト盤的な内容となってしまったのだ。

 そういったネガティヴな要因が複雑に絡み合い、正当な評価を受けることが少ない『DAHLIA』。音楽的にはどうかというと、もはや純粋なヘヴィメタルの作品と呼ぶには苦しい内容だった。オープニングこそ初期の彼らを思わせるスピードメタルチューン「DAHLIA」が飾るが、全10曲中4曲がピアノを軸にしたバラードという比率で全体のメタル色が減退。またソロ活動を経て作曲の幅が広がったHIDEは「SCARS」「DRAIN」といったオルタナテイストの楽曲を提供し、TAIJIに替わってバンドに加入したHEATHもデジロック調のインスト「WRIGGLE」をPATAとともに制作している。そしてYOSHIKIもこういった流れに影響を受けてか、当時のV系バンドにも通ずる色合いの「Rusty Nail」や全楽器を自身が演奏した「White Poem I」を制作。『Jelousy』や『ART OF LIFE』の続きというよりは、海外進出を機に次のフェーズに進もうとするバンドの過渡期……それはヘヴィメタルバンドからの脱却を意味するものだったのかもしれないが、そういった姿が『DAHLIA』というアルバムから浮かび上がってくる。だからこそ、バンドとして生まれ変わった姿をアピールする「次の作品」が重要視されていたはずなのだが、X JAPANは1997年末をもってバンドとしての活動を終了させることとなった。

 もしX JAPANがあのまま続いていたら、あるいはHIDEが亡くなることなく予定どおり2000年に再始動していたら、YOSHIKIやHIDEはこのバンドのためにどんな曲を書いていたのか、どんなアルバムを制作していたのか……今でも気になるファンは多いことだろう。その後X JAPANは2007年に復活を宣言し、これまでに「I.V.」「Scarlet Love Song」「JADE」「Without You」といった新曲をライブやデジタル配信で発表している。これらは「『DAHLIA』の続き」ではあるものの、厳密には「『DAHLIA』の続き」ではない。HIDEがこの世を去り、新たにSUGIZO(LUNA SEA)という「広義でのX JAPANフォロワー」を迎えて進む新章、そして来たるニューアルバムへの橋渡し的なものと、個人的には解釈している。

 『DAHLIA』のリリースからまもなく19年が経とうとしている中、2015年11月には待望の新曲「BORN TO BE FREE」が配信リリースされる。2010年頃からライブで披露されているこの曲は、2016年3月に発売予定の約20年ぶりのニューアルバムからのリードシングルとなる。彼らの創作ペースや肉体的な問題を考えると、この次のアルバムが何年後に届けられるのか、まったく想像がつかない。ヘヴィメタルをベースにしながらも独自の世界を構築していき、その結果X JAPANとしか呼びようのない音楽を作り上げることに成功した彼ら。彼らの後ろにはV系やJ-POP、パンクにヒップホップにラウド系、さらにはX JAPANやV系から影響を受けた海外メタルバンドまで、幅広いジャンルのフォロワーが続く。もはや日本のメタル/ラウドシーンというよりも、日本の音楽シーン全体にとって大きな影響を与えた存在。そんなオリジナルな存在はここ日本で、後にも先にもX JAPANだけだろう。現在の日本のロック/メタルが失ったもの、あるいはシーンに足りないものを考える上でも今一度、(破天荒さが目立つ逸話の数々を含めて)彼らの歴史や功績を振り返ってみるのもいいかもしれない。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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