氷川きよし新曲のサウンドにみる、歌謡曲とスペイン語圏音楽の関係

 思えば日本の歌謡曲は、ルンバ、チャチャチャ、マンボなど様々なラテン系リズムを取り入れてきました。いわばスペイン語圏の音楽です。氷川きよしはそうした歌謡曲の系譜を受け継ぎ、2009年の「ときめきのルンバ」、2010年の「虹色のバイヨン」、2011年の「情熱のマリアッチ」など、スペイン語圏の音楽を積極的に取り入れてきました。そして「愛しのテキーロ」では、2015年における歌謡曲の正常進化を体現しているわけです。今回は、リズムというよりはサウンド面でのスペイン語圏音楽へのアプローチですが、氷川きよしの強度をもってすれば、コロンビアから生まれたリズムが電化したデジタル・クンビアを取り入れてもまったく問題ないのではないかと期待しています。

 『愛しのテキーロ / 男花(シングルバージョン)』は両A面(これはアナログレコード時代の遺産とも言うべき呼び方で大好きです)で、「男花(シングルバージョン)」は7月に発売されたアルバム『新・演歌名曲コレクション〜さすらい慕情〜』からのシングル・カット。こちらの楽曲は、全編を貫く熱い和太鼓や笛の響きに、昇り竜のような勢いのエレキ・ギターも乗り、聴いているだけで『NHK紅白歌合戦」終盤の祝祭感を連想してしまうサウンドです。ここでのエレキ・ギターは、アメリカやイギリスのロックではまず聴けないタイプの演奏で、まさに日本国内で土着化されたうなりかたをします。要は電化されたコブシなんですよね。

 「男花」のストリングス・アレンジは「愛しのテキーロ」と同じく石倉重信。その一方、作曲の梅原晃と編曲の野中“まさ”雄一は、ともにAKB48グループ関連楽曲に名前のある作家であることが面白いです。「男花」では、野中“まさ”雄一の編曲家としての硬派な一面を見ることができます。

 さて、『愛しのテキーロ / 男花(シングルバージョン)』はジャケット違いの3形態があり、それぞれカップリング曲も異なります。今回私が聴いたAタイプは「あの娘の船はいつ帰る」を収録。両A面の2曲よりもグッと渋いサウンドの中で、ハーモニカが哀愁を醸しだしています。そして、高音の魅力を体感させる氷川きよしの歌唱。3形態でのリリースとなるととやかく言われがちですが、このクオリティを聴くと、3形態を揃えたくなるファンの心理も納得してしまいました。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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