アニソンの歴史に「メロキュア」というピースを嵌めるときが来た

 90年代中盤の第三次声優ブームの中で、林原めぐみを原点とする女性声優のアイドル的な音楽活動(林原本人は必ずしもこのカテゴリーにあてはまるものではないのだが)の音楽リリースが活発化する中、シンガーソングライターが彼女たちに楽曲を提供する流れが生じ、そこから転じて、楽曲提供者本人たちにもスポットが当たることが多くなった。メロキュアの「リーダー」である岡崎律子は、その中でも最大の成功を収めたひとりである。

 そしてメロキュアのもう片翼、日向めぐみ(=meg rock)は、中川翔子をはじめとする様々なアーティストへの楽曲提供や、西尾維新の人気作<物語>シリーズを原作とする同名大ヒットアニメシリーズにおける作詞家としての鮮烈な仕事ぶりで、現在のアニソンシーンに大きな存在感を示している。現在のシーンにおける最重要人物のひとりといっても、何ら過言ではない。

 こんなふたりによって結成されたユニットであり、さらに超個性的な「音」を持っている。メロキュアとしてふたりが奏でる音楽は、ふたりのどの仕事にも似ておらず、それでいて、間違いなくふたりの個性が発揮された音楽である。

 では、なぜこれまで、広く語られることが少なかったのか?

 それは、ただただ、岡崎が2000年代中盤以降のアニソンのムーブメント以前に故人となり、メロキュアとしての新譜リリースや継続的なメディア露出が叶わなかったから……という、ただそれだけのことでしかない。

 音楽史の中には、ときおりこうした存在が登場するものだ。わずかな音源を残し、リアルタイムのリスナーや、専門家、そして何よりも、同業者から圧倒的なリスペクトを捧げられながらも、その存在感や才能に比肩するだけの知名度を手にしていない。

 これまで何度、「せめて、アニサマに出演できていたら……」と、さいたまスーパーアリーナの客席で歯噛みをしたことだろう。

 今年、メロキュアは、新たな音源のリリースにくわえ、クラムボンのミトという良き理解者を得て、アニサマでの奇跡のステージが実現する。これを機に、猛然と再評価が始まることを、期待して止まない。

■前田久(まえだ・ひさし)
1982年生。ライター。通称「前Q」。アニメ関連の各種媒体、作品公式サイト、パッケージのブックレットなどで主に執筆。近況や仕事情報、連絡先などはTwitter:@maeQ でご確認ください。

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