世界で「金曜日」がアルバムリリース日に デジタル音楽時代を見据えた「業界の変革」とは

デジタル時代へと変化する世界の音楽業界

 厳密に毎週金曜日といっても世界同時発売ではない。毎週金曜日ローカル時間の00:01に新作がリリースされる。さらには、このリリース日を準拠する判断は市場によって異なる。この新しいリリース日は、iTunesなどデジタルダウンロード、CDやアナログレコードなどフィジカルな音楽メディアに適応される。しかし、アーティストやレコード会社が独自の判断に従いアルバムをリリースしても構わない。

 この変化で、もう一つ大きな影響を受ける音楽の既存システムがもう一つある。それは「音楽チャート」である。

 音楽チャートはこれまで各国のリリース日に合わせて集計されてきた。例えばアメリカのBillboardなら、これまで月曜〜日曜の売上データを集計してきた。「New Music Fridays」の発足によって、これまでの音楽チャートを発売初日の金曜日を基準に変更することを発表する音楽市場が徐々に現れ始めている。

 アメリカのBillboard、イギリスのThe Official Chart Companyはすでにチャート集計システムを金曜日〜木曜日へ修正、7月の新システム開始と同時に新チャートも実現させている。

 またSpotifyなど定額制音楽ストリーミングサービスの再生データも、新チャートのシステムに応じて集計を金曜日〜木曜日に変更し、データを統合させる国も出始めた。これもアルバムリリースと同時にストリーミングサービスで音源を配信開始するアーティストが増えたためである。

 IFPIは金曜日のリリース日を決定するために、SpotifyやRdio、Napster、iTunesなどデジタル音楽サービスとも協議を行ってきた。アップルはすでにApple MusicとiTunesを使った独占配信を始めている。Spotifyはすでに金曜日に合わせて「New Music Friday」プレイリストを用意するなど対応を進めており、今後は金曜日に合わせて、新作に対するバズを最大化する配信方法をどう戦略的に取り組んでいくか、音楽サービス各社の存在価値がビジネス面でさらに重要になるだろう。

 「New Music Fridays」が提示する新たな価値、それは音楽の聴かれ方とビジネスが、もはやダウンロードだけでなくなったことを示している。それは定額制音楽ストリーミングの世界的な普及が大きいし、よりリアルタイム性ある音楽の配給が業界でも重要であることを意味している。さらに言えることは、iTunesでの世界同時配信や、音楽ストリーミングの配信、SNSでの情報拡散を考えた場合、CD中心のシステムではこれら音楽消費行動の流れをカバーできなくなりつつあると断言してもいいだろう。CD時代の焼き増しではない、デジタル音楽を聴くファンに寄り添った基準を作るための一歩といえる。世界の音楽業界は変化できる可能性があるうちにアクションを起こしてきたのである。

 もちろん、世界統一リリース日に反対する業界関係者も存在する。特に大きな懸念は、大物アーティストになればなるほどリリース日の話題作りを巨大化できてしまうというプロモーション上の問題だ。

 インディーズレーベルグループで大きな影響力を持つベガーズ・グループのCEO、マーティン・ミルズは改定を疑問視する代表格だ。ミルズは「新たな仕組みによって、メインストリート級のアーティストの支配が広がり、明日のメインストリートとなるはずのニッチなアーティスト達が無視される市場が生まれることを危惧している」とインタビューで答えている。この問題に対して、IFPIは世界中のインディーズレーベルや独立系レコードショップなどとも連携を図り、納得できる答えを導き出してもらいたい。

 さて日本はどうだろうか? 日本では、邦楽は従来通り水曜日のリリースとなる。つまり「New Music Fridays」は洋楽に、従来のリリース日は邦楽に適応されるシステムという2つの異なるリリース日が生まれてしまった。この決定によって日本のオンラインストアやショップは異なる日本の音楽産業にどんな影響をあたえるのだろうか? 

 この是非を判断するには、まだ時期尚早といえる。しかし、金曜日という週末の初日に新しい音楽で盛り上がろうとする文化が世界中でできつつある今、旧式のシステムを変えることも音楽を盛り上げる一つのアプローチではないだろうか? イギリスでは、28年間に渡って公式チャート番組を放送してきたBBCが日曜から金曜放送に変更する英断に踏み切った。システムに変化を与え最適化することから生まれる新たなアイディアが、ファンと音楽の距離を縮めてくれるヒントになるかもしれない。今後も「New Music Fridays」から生まれる新たなスターとトレンドに注目していきたい。

■ジェイ・コウガミ(音楽ブロガー、All Digital Music http://jaykogami.com
デジタル音楽ブロガー。音楽ブログ「All Digital Music」編集長。音楽サービスや音楽テクノロジーなど、日本のメディアでは紹介されない音楽の最新トレンドを幅広く分析し紹介する。オンライン、雑誌に寄稿するほか、講演やテレビ、ラジオなどで活動。日本初ITx音楽のハッカソン「Music Hack Day Japan」審査員。http://jaykogami.com

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