石田ショーキチが語る、これからの音楽活動論「お客さんと直接つながる喜びに勝るものはない」

「四つ打ちのロックバンドが多くなったのは大歓迎です」

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――前回のインタビューでは、いまの音楽シーンは大変難しい時期に入っていると指摘していましたが、あれから1年半経ったいま、現状をどう捉えていますか。

石田:サウンド面では、若い人たちのレベルは上がっていて、巧いプレイヤーが増えてきたと実感しています。YouTubeをはじめとして簡単に色んな音が手に入る時代になり、みんなが分厚いディクショナリーを持つようになったことが影響しているのでしょう。聴く側も演奏する側もみんな耳が肥えてきていて、その中で浮上してくるのはそれなりのプレイヤーですね。先日、兵庫慎司さんがリアルサウンドに『海外と日本のバンドの「ドラムの違い」とは? 元アマチュアドラマー兵庫慎司が考える』というコラムを寄稿していて、10年ほど前のエレクトリカルなテクノのムーブメントの後に、DJが作るビートのほうが面白くなっちゃって、ロックバンドのドラマーは普通のことをやっても面白くないといって切磋琢磨してきたと指摘していましたが、そういった現象はドラム以外の楽器でも起こっているんじゃないかな。みんな、いろんな音楽を聴くようになって、音楽性に幅が出てきている。

――石田さんもまさにエレクトリック・ミュージックの衝撃を受け止めた世代ですね。

石田:ダンスミュージックという意味では77年、小学4年の時に『サタデーナイトフィーバー』で衝撃を受けていますね。その後、ユーロビートの最初のムーブメントが86年や87年くらいにあって、僕もメタルから音楽を始めたのが、ディスコのDJとかをやっていた時代もありました。ダンスミュージックの持っている本能的な肉体の躍動感は、ロックとちょっと違うところにあったけれど、90年代の終わりからはだんだんと一体化してきて。それはもう本当にいい時代になったと思って、僕もScudelia Electroをはじめたんですけど、幸か不幸かScudelia Electroはダンスミュージックの方にあまり傾倒しませんでした。日本でも四つ打ちのロックバンドが多くなり、いまやJ-ROCKの一流派になっていて、すごくいい流れだと思います。昔からダンスミュージックが好きな人間にとっては大歓迎ですね。そういうものが主流化していくと、違うアプローチを取る人も同じぐらい面白い音楽を作らなければいけないので、シーンがどんどん充実していくのだろうと思います。

――一方で、音楽活動を仕事として行い、稼いでいくことが難しくなっているという問題点もありますが、その辺はどう捉えていますか。

石田:そうですね。どこかに突破口はあるんでしょうけど、いまは多くの人が模索している段階だと思います。そうした状況を受けてか、後輩のミュージシャンには現実的な人が増えている感じがしますね。「一発当ててやる」みたいなことより、ちゃんと自分の食いぶちを確保しながらどうやって音楽を続けていくかを考えている。10年ほど前に、ある出版社から「本を書かないか」というお話があって、その時に「音楽で飯を食えると思うな」というタイトルを考案していて。結局、その出版社は途中で倒産してしまったので本は出せなかったのですが、当時からそういう幻想は持たないほうが良いと思っていました。前回も話したと思うけど、僕は99年にポリスターを離れてから、レコード会社と専属契約をしていなくて、たまにレコード会社からリリースしても、それは1作ごとの制作契約にしてきました。僕らの時代は、ものすごくたくさん売るアーティストが各メーカーにいて、その人たちの利益で売れていないミュージシャンにも給料を払うことが出来ました。でも、2000年過ぎた頃からレコード会社の収益が右肩下がりになっていって、メーカー契約したからって給料をもらえるような時代じゃなくなってきた。だから自分の生活は自分できっちりと回して、その上で音楽に精進するというのが一番美しいやり方だと言い続けてまして、実際に僕がこの1年でプロデュースをしたミュージシャンは、みんな社会人としてちゃんと仕事を持ちながら、自分たちの音楽を追求しています。「死んだ僕の彼女」は2作目くらいからプロデュースを担当するようになって、鬼教師として厳しくやってきた甲斐もあってか(笑)、すごく良い作品を作るようになりましたが、ちゃんとサラリーマンとしても成功していて、それは素晴らしいことだと思います。とても尊敬しますね。

――なるほど。別の仕事を持ちながら、自主でミュージシャンとして活動する方が現実的であると。

石田:いまもメジャーメーカーとやりたいという人は多いと思うんです。とくに僕ら世代のミュージシャンはそう。でも、たとえば僕の場合、メジャーメーカーから「うちから出しませんか」という話をいただいて、電卓をはじいてみたら、自分のレーベルから出した方が全然儲かるというケースが多くて。アルバム1枚が3000円で、仮に3000枚しか売れなくても、自分で売れば900万円入るんですね。メジャーメーカーの強みとしてはプロモーション力が挙げられるけれど、メーカーから分配を受けるなら少なくとも1万枚以上売ってもらわないと割りが合わないんですけど、今の時代ですとそれはなかなか……。メジャーと組むと取材をいっぱいしてもらえるとか、テレビに出させてもらえるとか、テレビに出ている姿を見て田舎のお母ちゃんが喜ぶとか、そういうメリットはあるかもしれないけれど、なかなか売上げにはつながらず、経済的にはどの会社も厳しいのが現実ですよね。

――CD売上げの総数が減っている以上、自ら販売していったほうが得策という考え方ですね。

石田:そう。実際、5〜6年前に『デトロイト・メタル・シティ』という映画の音楽をやったんですよ。サントラは10曲か11曲入ったアルバムで、僕は半分ぐらい手掛けたんですけど、それがオリコン初登場で4位くらいにランクインして。その知らせを聞いて、「久しぶりに印税がっぽりかな?」って喜んで、オリコンのホームページを見てみたら、推定売上枚数が3万1千枚とかだったんです。メジャーメーカーでその枚数では、貰える額は知れています。それでよくよく考えてみると、今オリコンの50位以下は、イニシャル何百枚なんて世界もある。CDの売上がこれだけ落ち込んでいる世の中で、売上チャートで何位になったとかの意味が薄れているのに、未だにみんながその順位に踊らされている状況はやはりおかしい。そう考えると、自分で旅を回りながらお客さんに買ってもらうと、数千枚単位でも普通に商売として成り立つしお客さんも喜んでくれるし、これはこれで全然良いと思えますよね。それを普通の流通ラインにこだわると、格段にさばけなくなるし、自分の実入りは減る。実際、メジャーにいったものの、バイトもできず、収入も少なく、ライブの遠征などでほとんど家にも帰れないような新人バンドも少なくないですよ。

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