BiS解散から1年、元メンバーたちの「今」は? 宗像明将が徹底追跡レポート

カミヤサキ

 たった1年でもっとも激動の歴史をたどったのはカミヤサキだろう。プラニメをいずこねこの茉里(ミズタマリ)と結成し、渡辺淳之介の新会社・Wackのマネージメントのもと、T-Palette Recordsに所属するという順風満帆なスタートを切った。

 初ライブとなった2014年8月2日の『TOKYO IDOL FESTIVAL 2014』では、私はSMILE GARDENでの野外ライブを見たが、松隈ケンタによるEDMな「Plastic 2 Mercy」を繰り返し歌い、最後はプラニメがステージから客席に降りて、カミヤサキがリフトされるというBiS時代を彷彿とさせる光景となった。

 2014年9月30日には『Plastic 2 Mercy』、2015年1月6日には『UNIT』をリリース。しかし、『UNIT』の時期のプラニメのインタビューには不穏な空気があり、『UNIT』発売日にリリース・イベントへ行ったところ、メンバーとプラニメイト(プラニメのファンの総称)の間に微妙な距離のようなものがあることも感じた。

 そうしたものを一気に吹き飛ばしたのが、2015年3月22日に宮城県女川町で開催された『女川町復幸祭2015』でのライブだった。「山ステージ」にはももいろクローバーZが出演し、約7000人のファンが。それに対して、「海ステージ」のプラニメはその100分の1以下の人員だった。しかし、地元の楽曲である「サンマDEサンバ」を出囃子に登場し、最後は「Plastic 2 Mercy」でプラニメイトとともに見事な暴発を見せ、最高のライブを見せた。詳しくは、Yahoo!ニュースでの私のレポートを参照してほしい(参考:面白い人が作る街って面白い プラニメなど出演「女川町復幸祭2015」レポート(前編)(後編)

 しかし、それから10日も経たない2015年4月1日、ミズタマリが脱退を発表した。エイプリル・フールと思いたかったが、4月2日になっても発表が覆ることはなく、2015年5月31日に高松で開催された『IDOL LIVE CIRCUIT 2015 IDOL PARADISE SP Vol.1』をもってミズタマリは脱退。事実上の解散である。

 そして、2015年6月1日には新メンバーとしてイヌカイマアヤ、ヤママチミキ、シグサワアオ、ユメノユアの加入が発表された。同時に、プラニメが“Period of Plastic 2 Mercy” 、正式名称「POP」に改称されることも発表された。ふだんは「ピオピ」とも呼ばれる。

 お披露目は、2015年6月6日から7日にかけてBiSHと行われた熱海駅伝という異例のスタイルであった。

 ライブのお披露目は、2015年6月28日に開催された『ギュウ農フェスvol.3 羽田空港アイドルフライトだっぺ!』。全員が赤のジャージという衣装だった。「POPの赤ジャージは6800円の高いジャージ」という情報もあったが、メンバーに聞いてもわからないと言われたので謎のままである。楽曲は、執筆時点ではプラニメ時代の楽曲を新しくアレンジしたものだ。

 私は2015年7月2日にようやくPOPを見ることができたが、BiSの派生グループとしては解散後約1年を経て遂に生まれた最高のグループなのではないかと感じた。これほどフレッシュなグループは他にいなかったのではないだろうか。百戦錬磨のカミヤサキ以外のメンバーは余裕のない印象ではあったが、まだ高校生だというシグサワアオの若さと歌は非常に強力な武器だ。そもそも、高校生をメンバーにするという事例がこれまでなかったことにもやっと気付いた。

 「ユメノユアは俺が支えなきゃ……」という気持ちにまでさせてくれたPOP。はっきり言って、POPの現場が最高であることは、この原稿にすら書きたくない。なぜなら自分がおいしい思いをしたいからだ。しかし、事実なのだから書かなければならない。本音としては、みんなBiSHに目を奪われたままでいてほしいのだが。しかし、カミヤサキのもとに集う形となったPOPは、メンバーがまだぎこちない試行錯誤をしている姿も含めて、これまでのBiS派生グループにはない、新鮮にして熱いステージを見せている。

 もしあなたがBiSに乗り遅れた人だとしたら、悪いことは言わない、一刻も早くPOPを見るべきだ。

テンテンコ

 テンテンコが完全インディーズでリリースした『Good bye, Good girl.』が、オリコン週間シングルランキングで32位まで上昇したことを知っている人は少ないかもしれない。フリーで活動しているテンテンコは、音楽的にもっとも多彩な活動をしている元BiSメンバーだろう。

 2014年7月20日の『夏の魔物前夜祭』でAndreas Dorauの「Die Welt ist schlecht」を流している動画には、「どこから掘ってきたんだ」と驚いたものだが、それはほんの序の口。

 2014年8月18日に渋谷WWWで開催された『いいにおいのする夏の無料の大感謝祭』にDJテンテンコが出演した際には、いきなりアポジー&ペリジーの「月世界旅行」を歌いだして、一気に興奮させられることになった。「月世界旅行」は、細野晴臣がプロデュースした1984年のアルバム『超時空コロダスタン旅行記』の収録曲で、戸川純が歌っている楽曲だ。テクノポップの古典アルバムだが、その中だと「真空キッス」が取りあげられることが多いだけに、テンテンコがあえて「月世界旅行」をチョイスしたことにしびれたものだ。「月世界旅行」はその後も歌われていくことになる。

 2014年9月12日には、テンテンコ主催イベント『ブタゴリラ』が渋谷THE GAMEで開催された。向井秀徳が「KIMOCHI」でテンテンコを呼びこみ、手を握りながらデュエットしたのがその日のハイライトだった。

 また、この日はテンテンコと滝沢朋恵(ふたりは中学高校が一緒である)によるユニット“フロリダ”が、なんとキララとウララの1984年のシングル「センチ・メタル・ボーイ」のカヴァーを披露して、思わず奇声を発してしまった。

 この頃、テンテンコのSoundCloudにアップされたDJミックスには、Martin Dennyの「Firecracker」も含まれていた。細野晴臣がYMOを始めるにあたって、この楽曲をシンセサイザーで演奏することを考えたエピソードは有名だ。

 また、同時期にテンテンコは、アイドルにとっての大きな収入源であるチェキをやめている。彼女がアイドルとは違う存在に移行しようとしている覚悟を実感した。

 2014年11月にはカセットテープ『カセットレボリューション vol.2』に、フロリダが「マザーマウス IN THE KITCHEN」で参加。

 そして、2014年11月22日に「Good bye, Good girl」のビデオ・クリップが公開された。90年代オマージュなサウンドに乗せて、VHS画質の映像を見ていると、90年代の東京を見ているかのような気分になる。明日庵野秀明の『ラブ&ポップ』が公開されるかのような世界だ。

 2014年11月29日には、ムーンライダーズの鈴木慶一の別バンド・Controversial Sparkとフロリダが対バンし、ムーンライダーズ人脈との接点が顕在化する。必然の流れだった。

 2014年12月17日にリリースされた、かしぶち哲郎のトリビュート・アルバム『a tribute to Tetsuroh Kashibuchi~ハバロフスクを訪ねて』でテンテンコが歌っているのは、かしぶち哲郎が岡田有希子に書き下ろしたものの、彼女の自殺により約13年世に出なかった楽曲「花のイマージュ」だ。サウンド・プロデュースは、カメラ=万年筆の佐藤優介が担当している。

 2015年1月14日には、それまで会場限定販売だった『Good bye, Good girl.』が全国流通で発売され、冒頭に書いたような好セールスを記録する。また、全国流通盤ではNATURE DANGER GANGのSEKIがカップリングの「HOT PANTS」のリミックスを担当しており、東京のインディーズシーンとの関わりもうかがわせた。

 2015年4月18日には、なりすレコードからフロリダが初の単独作品『右手左手』を7インチアナログ盤とCDのセットでリリース。B面の「パンダうさぎコアラ」はレコードの溝がループしており、CDでは71分にも及ぶ。

 2015年5月3日にはテンテンコ主催の『ブタゴリラ Vol.3』が渋谷WWWで開催された。このときはチケットの売れ行きが思わしくないということで、本人が連日USTREAMを配信。当日は、アイドルヲタこそ少ないものの盛況で、テンテンコがイベントオーガナイザーとした新たな扉を開いたことを実感させた。この日のハイライトは、七尾旅人との「Rollin' Rollin'」のコラボレーションである。

 2015年5月20日には、ラッパーの狐火のアルバム『ネオニート』に「スナック feat,テンテンコ」で参加。同時期に、禁断の多数決のTSUTAYAレンタル盤に収録されている「GOGO!!カンフーダンス feat.テンテンコ」にも参加している。

 2015年6月23日には、フロリダの初のミニ・アルバム『FLORIDA』がリリースされた。フロリダには比較的ポップな曲もあるのだか、それを見事に削ぎ落として、アブストラクトな側面を押し出した作品だ。難解ではあるが、フロリダは基本的に実験音楽なので特に問題はない。『FLORIDA』では、アイヌの輪唱を連想させる「KYO」の美しさをぜひ聴いてほしい。

 ここには書ききれなかったが、ZINE、VHSテープ、音源付き写真集の発売や、非常階段との共演、なりすレコードのソノシートへのフロリダ楽曲の収録など、あまりにも独自の道を行くテンテンコ。しかし、彼女の音楽は、80年代ニュー・ウェーヴやテクノポップを通過した人の琴線には触れるに違いない。しかも実験音楽やノイズまで飲み込んでしまうのがテンテンコなのだ。

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