きのこ帝国・佐藤が明かす、音楽家としての”根っこ”「誰かと出会いたい一心で音楽をやっている」

「聴いた人の人生に残るようなアーティストがいないと音楽シーンは縮んでいく」

——昨日UK Project時代の全作品を聴き直しました。実は一番感じたのは佐藤さんのヴォーカリストとしての変化です。「渦になる」(2012年)の頃なら「桜が咲く前に」は歌えないと感じました。

佐藤:内面の変化はすごくあるし、歌に出てくると思いますね。「東京」を書いて以降は、より「楽曲至上主義」になりたいなと思ったので、その曲ごとにベストな歌い方を心がけています。今までは、ライヴハウスでの活動を念頭に入れて曲作りをしてたんです、ライヴから逆算して。でもCDになったとき、いい部分と悪い部分があったので、ライヴはライヴ、CDはCD、という分け方で制作に向かうようになってきた感じですね。

——今のバンドがフェス向けに曲を作るという話はよく聞きますし、そういう意味ではメインストリームから離れる方法にも見えますが……。

佐藤:メインストリームの流れは、5年、10年すれば変わると思うし、きのこ帝国は「音楽はこうあるべきだ」という思想を変えないでやっていきたいなと思います。

——その思想とはどういうものでしょうか?

佐藤:聴いた人の人生に残るようなアーティストがいないと音楽シーンは縮んでいくと思うんです。

——「きのこ帝国は変わっちゃった」と思う人もいるかもしれませんよね。

佐藤:でもいつかまた出会えると思います。その人もいつか歩き出さないといけないし、その先で自分たちが待っていられたらな、と思います。「背中を押す」という傲慢なことを言うつもりはなくて、自分たちの歩幅で歩いていると離れてしまう人もいるかもしれないけど、また何かの巡り合わせで、ふっと聴いて「いい」と思える日が来るかもしれないじゃないですか。そのために偽らずにやっていきたいんです。自分たちの成長を無視して立ち止まることは不義理だと思ったんです、それはパフォーマンスになっちゃうから。音楽はパフォーマンスじゃないと自分は思っているので。

——佐藤さんは、きのこ帝国としての誠実さを追求されてますね。

佐藤:誠実さだけがとりえというか、それ以外のことが器用にできる人たちじゃないので。だから「自分たちが成長することでいっぱいいっぱい」と言ったほうが正しいのかもしれません。誰かと出会いたいという一心で今はやっている感じです。

——その「誰か」というのは新しいリスナーですか?

佐藤:昔好きだった人とか、昔の友達とか、親とか、そういうのでいいんです。そういう人たちに胸を張って聴かせられる曲を作りたいんです。社会とのつながりは音楽しかないと思うので、そこで自分という人間をどうやって認めてもらうか。「わかりあう」というのは不可能だと思うので、「わかちあう」ことが可能だったら嬉しいです。

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