嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(後編)

相葉雅紀と空気系

 一方、相葉雅紀は、『天才!志村どうぶつ園』(04年~・日本テレビ)などのバラエティ番組を主戦場としていることもあってか、ドラマの主演作はほかの四人に比べると少なく、俳優としての評価も必ずしも高いとは言えない。個人的には『マイガール』(09年・テレビ朝日)のハートウォーミングなムードは悪くなかったと思うのだが、あまり同系統の作品が作られていないのを見るに、今は、相葉の明るい個性を活かすようなドラマが作りにくい時代なのかもしれない。

 だが、ここはまだ掘り下げることができるのではないかと思う。

 たとえばアニメでは『けいおん!』(09年・TBS)のような、軽音部の女子高生たちのゆるふわな日常を描いた“空気系”と呼ばれる作品群がある。作中では派手な物語が起こらずに、同性間でのゆるいやりとりが延々と繰り返されるのだが、例えば嵐が出演するゲームのCMや、『嵐にしやがれ』(10年~・日本テレビ)などのバラエティで見せる男の子がぐだぐだとじゃれている感じは、まさに“空気系”のソレであり、その中心にあるのは相葉が持つピースフルな空気だろう。そういったエッセンスを相葉主演のドラマに持ち込めればまだまだ可能性はあるのではないかと思う。
  

10年代の嵐

 00年代を一気に駆け抜けた嵐は、その後も順調にキャリアを積み重ねている。

 代表作をいくつか振り返ってみよう。 

 櫻井翔は『家族ゲーム』(13年・フジテレビ)で、謎の家庭教師・吉本荒野を演じ不気味な存在感を見せた。かつては松田優作や長淵剛も演じたことのある家庭教師役だが、櫻井翔が演じた吉本は、何を考えているのか解らないつるんとした男で、櫻井の持つライトな明るさが、むしろ平坦な薄気味悪さへと裏がっている悪夢のような作品だった。慶応義塾大学を卒業し、ニュース番組の司会も務める櫻井は、過去にも『ザ・クイズショウ』(09年・日本テレビ)で、インテリ然としたトリックスター的なクイズ司会者を演じたことがあったものの、その時はまだ演技力が追い付いてなかった。しかし役者としてのキャリアを重ねたことで、本作の吉本荒野は、櫻井の持つインテリジェンスに裏付けされたどこか冷たい客観的な態度が見事に役柄にも反映されていた。

 松本潤は、『夏の恋は虹色に輝く』(10年・フジテレビ)以降、『ラッキーセブン』(12年・フジテレビ)、『失恋ショコラティエ』(14年・フジテレビ)に出演し、今や月9の常連となっている。

 なかでも意欲作だったのは、『失恋ショコラティエ』だろう。

 水城せとなの少女漫画を原作とする本作は、チーフディレクターの松山博昭による作りこんだ演出によるスピード感溢れる何でもありの音楽的映像によって、めくるめく恋愛が、チェスのような心理戦として描かれた。松本は、ショコラティエ(チョコレート菓子専門の職人)の小動爽太を演じ、人妻の高橋沙絵子(石原さとみ)に翻弄される一方で、モデルの加藤エレナ(水原希子)とセックスフレンドの関係にあるという、今までのキャリアの総決算のような王子様役だったと言える。

 二宮和也は24時間テレビ内で放送されたスペシャルドラマ『車イスで僕は空を飛ぶ』(12年・日本テレビ)が圧巻だった。『野ブタ。をプロデュース』(05年・日本テレビ)や『Q10』(10年・日本テレビ)で知られる河野英裕がプロデュースした本作は普通の人が何となくイメージしている前向きに生きる障がい者を主人公にした闘病モノだと思っていると痛い目を見る問題作で、二宮はチンピラとの喧嘩の最中に脊髄を損傷して車椅子の生活を余儀なくされた青年を演じた。

 ドラマ終盤に展開される母親役の薬師丸ひろ子とのぶつかり合いは壮絶の一言で、近作ではもっとも二宮のポテンシャルが発揮された作品である。

 大野智はミステリードラマ『鍵のかかった部屋』(12年)で初の月9出演を果たした。本作で大野が演じたのは榎本径という警備会社に勤める防犯に精通した鍵マニア。鍵にまつわる密室トリックを冷静な分析によって解き明かす榎本の無機質な佇まいは、『怪物くん』などでの漫画キャラクターとは別の意味での非人間的な魅力があり、役者としての大野の可能性をより広げることとなった。

 相葉雅紀は高度先端医療センターを舞台にした『ラストホープ』(13年・フジテレビ)で、町医者の父を持つ優しい医師を好演したものの、まだ決定的な代表作には出会えていない。しかし、15年4月からの月9ドラマ『ようこそ我が家へ』の主演が決定している。原作は『半沢直樹』(13年・TBS)で知られる池井戸潤の同名小説で、相葉は売れない商業デザイナーを演じる。物語はある事件をきっかけに家族に対する嫌がらせが次々と起こるサスペンスドラマとなるらしいが、相葉のピースフルな雰囲気を、むしろサスペンスのスパイスに使うというアイデアは悪くないと思うので、放送が楽しみだ。

 このように各人の俳優活動は順調だが、今後の課題は嵐の各メンバーが青年役からどのように中年役へとスライドしていくかだろう。

 現在の嵐は全員30代。見た目こそ全員若いものの、今後はさすがに青年役を演じることは年々難しくなっていく。そんな中で年相応の大人に成熟していくのか、それとも今のまま仲間同士で戯れ続けるのか? その試行錯誤のむずかしさが垣間見えたのが二宮和也が主演を務めた土9の『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(14年・日本テレビ)だ。

 『車椅子で僕は空を飛ぶ』と同じ河野英裕プロデュース作品で、二宮は進学校の野球部のコーチを演じた。しかし、先生役を演じるには少し早すぎるが、生徒役の福士蒼汰や本郷奏多と見比べると学生の側にも入れない中途半端な役柄で、そのためか二宮もどう演じていいのか、最後まで迷っていたように感じた。このあたり、ドラマの出来や演技力とは別に、今後、国民的アイドルでありながら、等身大の男の子として生きてきた嵐がどのように年をとっていけばいいのか? という難しい課題が表れている。

 先駆者としてのSMAPは、00年代に30代に突入したときにドラマで演じられる役柄の幅が狭まっていった。

 今のSMAPは年齢相応のリアルな中年というよりは、年齢不詳のスターや、非人間的なキャラクターばかりを演じている。おそらくSMAPは最後のテレビスターとして、同世代のファンとともに、行けるところまで今のまま突き進むのだろう。その姿にはどこか悲壮なものすら感じる。

 では、嵐はどうなるのだろうか。

 『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)の著者・原田曜平は、地方で充足し、仲間内だけでつるむ若者たちをマイルドヤンキーと名付けたが、彼らのような若者たちの姿をポジティブな意味で体現していたのが、『木更津キャッツアイ』であり『嵐にしやがれ』等のバラエティ番組で見せる嵐の5人が見せる緩いやりとりだった。

 『木更津キャッツアイ』では、30代となったバンビたちの姿は描かれることはなかったが、嵐の5人が30代になった今、試されているのは、今までのようなマイルドヤンキー的な緩さを維持し続けるのか。それとも、居心地のいいモラトリアム空間に別れを告げるのかということだ。

 ドラマの配役というのは、無意識下の視聴者の欲望を引き受けてしまうところがある。もしもファンが嵐のメンバーに強いヒーロー性を望むようであれば、今の少し頼りないが故の自由さは少しずつ失われていくのかもしれない。

 個人的には、今の緩さを失わずに30代に入った嵐ならではの、緩さを見せてほしいと思う。その意味で、今後の課題はポスト『木更津キャッツアイ』とでも言うような30代男子グループの新しいロールモデルをテレビドラマという形で、どのように提示できるかだろう。そしてその役割を担うのは、やはり嵐の5人しかいないのではないかと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』
リアルサウンド編集部・篇
価格:¥ 1,500(+税)
予約はこちらから

内容紹介:ごく普通の青年たちがエンタメ界のトップに君臨したのはなぜか? 音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンス…… 時代が嵐を求めた理由を、4つの視点から読み解いた最強の嵐本! 嵐の音楽はポップ・ミュージックとしてどんな可能性を持っている? 現代思想で読み解く各メンバーのキャラクターとは? 嵐ドラマは00年代の情景をどう描いてきた? 青井サンマ、柴那典、関修、田幸和歌子、成馬零一、矢野利裕など、気鋭の評論家・ライターが“エンターテイナーとしての嵐”を語り尽くす。総合音楽情報サイト『リアルサウンド』から生まれた、まったく新しい嵐エンタメ読本。

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