Berryz工房、ファンと過ごした最後の4日間ーー幸福のスパイラルを生んだ終演に寄せて

3月2日/東京プリンスホテル『Berryz工房祭り 後夜祭』

 「Berryz工房祭り」来場者と1月に発売された『完熟 Berryz工房 The Final Completion Box』購入者の中から抽選で選ばれた人のみが参加できたこのイベント。会場内に足を踏み入れると、飾られた懐かしい写真、ディスコグラフィー、衣装、そしてゲームコーナーに飲食店が。ステージ壇上にメンバーが現れ、トークがはじまる。まさに学園祭さながらの後夜祭。だが、これで終わらないのがBerryz工房である。各ブースに神出鬼没するメンバーたち。来場者にメンバー自ら食べ物を振る舞い、各所設置されたスタンプラリーに判を押し、ゲームに興じる。プロデュースを謳いながら味見をしていない“夏焼きそば”を振る舞う夏焼が目の前にいるかと思えば、後ろでは黒マントを羽織った悪魔・ももちが槍を振り回し、ファンを掻き分けて場内を闊歩する、かと思えば壇上に……と言った状況である。普通に会場内を自由奔放に行き来するメンバーたちに、至るところからファンのざわめきと笑い声の絶えない“すっちゃかめっちゃか〜”な時間だった。

 アイドル握手会などで厳戒態勢がしかれている昨今。この日はファンクラブイベントという訳でもなく、ましてや11年選手のトップアイドルが活動停止する前日という状況下である。本人たちの度量の大きさ以上にファンとの絶対的な信頼関係がなければ成り立たないだろう。混乱などはおきない、至近距離ながらも「アイドルとファン」という関係性が保たれているのである。紛れもなく世界で一番ピースフルなアイドルイベントだっただろう。

3月3日/日本武道館『ラストコンサート2015 Berryz工房行くべぇ~!』

 タイトルにもなっている「Berryz行くべ!」、彼女たちがライブ前に円陣を組んで臨む掛け声であり、いつもであれば、ファンがアンコールを求めるコールでもある。しかし、この日は開演前の注意事項映像が終わると同時に会場内から沸き起こった。そして、ステージに立てられたお城に白い衣装に身を包んだ7人が現れると、歓声に変わっていく。SEが止みカウントが鳴り、メンバーが縦一列にならぶ。その間、時間にして数秒、統率された兵士かのように鼓舞する1万人の「スッ!」。2005年3月にリリースされた、10年目の「スッペシャル ジェネレ〜ション」で最後の夜は始まった。

 ビシっとキメるスタートダッシュ、キラキラとしたアイドルらしい見せ場、猿の衣装でのコミカルな展開と、緩急をつけつつ多彩な振り幅を見せながらラストスパートへ。セットリスト、衣装、演出、メンバーの案を持ち寄って作り上げらたステージは紛れもなく最高のコンサートだった。セルフプロデュースは一歩間違えば自己満足や一方通行の独りよがりになることも多い。自分たちの魅せ方をちゃんと解っているアイドルが、アーティストが、どれほどいるのだろうか。

 「21時までのシンデレラ」で瞬きする暇もない魔法のような早着替えでドレス姿に変身する様はまさにシンデレラ。今ではすっかり衣装担当となった、オシャレ番長・夏焼雅が初めて衣装に携わったのが、2005年リリースの同曲だった。フィッティングの際、衣装の切れ端で作ったブレスレットが採用されたことが始まりでもある。そして徳永千奈美と須藤茉麻が「前髪を出すことすら許されなかった」と語る、当時中高生という年頃の女の子には抵抗のあった「行け 行け モンキーダンス」の猿衣装は、彼女たちのコミカル路線を開花させた。今や世界一着ぐるみが似合うアイドルといっても過言ではない。そうした、歌やパフォーマンスだけでない面からも11年という重みを感じる。

Berryz工房「21時までのシンデレラ」 (2005年)

 「アイドルに興味がなかった」と前置きしながら「あの日に戻るとしても絶対に同じ道を選ぶ」という須藤茉麻の言葉がすべてを物語っていた。どこか大人の事情も見え隠れしてしまうアイドルシーンにおいて、最後まで輝かしいアイドルをまっとうした彼女たちは涙ながらにも満足感にあふれていた。

 彼女たちは近年のアイドルブームとは少し遠いところにいた。アイドル戦国時代とも呼ばれた競争に交わることもなく、勝ち上がっていくようなストーリーも要らなかった。Berryz工房11年、ハロー!プロジェクトキッズから約12年半という人生の半分以上をアイドルとして過ごした時間すべてがリアルだからだ。

 Berryz工房がもたらす楽しさとはなんだったのだろうか。見る者を楽しませる術を解っていると同時に、まず自分たちが思う存分に楽しんでいる。好きなアイドルであれば何をやっても楽しいというファン心理もあるが、彼女たちの場合、自分たちをちゃんと客観視できているのである。つまりはファンとメンバーが求めるBerryz工房像が一致しているのだ。ファンはメンバーが楽しんでる姿を見て喜び、メンバーはファンが喜んでくれる姿が嬉しい、そんな嬉しそうなメンバーを見てファンはさらに嬉しさを感じる…… まさに幸せのスパイラルだろう。それは多幸感といった曖昧なものではなく、地に足のついた実感できるものだ。

 カッコよくて、可愛くて、美しくて、デコボコで、バラバラで、おバカなBerryz工房。シーンに刻んだその名前と11年の歴史、7人の少女たちがアイドルに捧げた眩い12年半はこの先、何年経っても色褪せることなく語り継がれていくことだろう。

47:00〜 Berryz工房「Love together!」(2015年3月3日 日本武道館)

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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