ザ・なつやすみバンド、“生きるための逃避”を語る 「バンドをやること自体が永遠の夏休み」

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「技量よりも、人柄とかプラス・アルファの部分のほうが大事」(sirafu)

――僕が初めてTNBを観たのは、まだ、sirafuさんがサポート・メンバーだった頃だと思いますが、中川さんはソロ・シンガーとしてもやっていけるんじゃないかって思ったんです。もちろん、並行してソロもやっていたわけですけど、歌とピアノだけで確固たる世界観をつくり出せるひとがあえてバンド・サウンドに乗せて歌っているという印象があった。

中川:昔は周りによくそう言われましたね。でも、ソロはそこまでやりたいわけではなくて、あくまでもバンドがやりたいんです。

――語弊があるかもしれないですけど、TNBのリズム隊(ベース=高木潤、ドラムス=村野瑞希)はいわゆる〝上手い〟プレイヤーとは違うと思うんですよ。

sirafu:ここ数年で開花してきましたね。僕は、自分がやるバンドに関してはあまり技量を重視していないんです。人柄とかプラス・アルファの部分のほうが大事だと思っているので。実際、潤は音のチョイスが変わっていますし、瑞希ちゃんもあまり普通じゃなくて、それが面白いなって。

中川:うん。なんか変なんですよ。

――そう、僕もファースト・アルバムを聴いた時に、あの二人のドタバタとしたリズムだからこそ、中川さんの歌にある少年っぽさが引き出されるのかもしれないって思ったんです。中川さんとsirafuさんがデュオでやっている<うつくしきひかり>がマジック・リアリズムだとしたら、TNBはジュヴナイルというか。

sirafu:最近、中川とよく話すんですが、TNBの〝なつやすみ感〟って潤と瑞希ちゃんなんですよ。僕たちだけでやると<うつくしきひかり>みたいに、もうちょっと内に向かう感じになる。対して、TNBの絶妙な感じを出してるのがあの2人で。

――〝ザ・なつやすみバンド〟って名前だけを聞くと、面白おかしい、あるいは、可愛いらしいイメージを持たれがちだと思うんです。結成時に名前を付けた時、〝なつやすみ〟という言葉にはどんな意味を込めたんでしょうか?

中川:現実逃避、ですかね。バンドを組もうっていう話をしていた時、誰かが「夏休みに戻りたいよ」みたいなことを呟いて、「あ、それ良いね」って付けました。バンドをやること自体が永遠の夏休みというか。メンバーも現実から逃げたいと思っているようなタイプの人達が集まったので、ほんの一瞬でもそういう場所がつくれればと思って。それで、〝ザ・なつやすみバンド〟がぴったりくるかなと。

――sirafuさんはバンドに関わる際、その名前からインスパイアされたりしました?

sirafu:いや、最初はあまりいい名前だと思わなくて。ダサいなって(笑)。だけど、3、4年やってきて、最近は凄く良い名前だと思っています。時代にリンクしてきたというか、今、〝逃避感〟みたいなものが必要とされているんじゃないかって漠然と感じていて。本当に現実から逃避しようとするとクスリにハマったりとかになっちゃうけど、そういうことではなくて、Twitterを見ていても、それぞれが自分なりの逃避の仕方っていうものを持ちながら生活しているなと。皆、仕事のストレスを、例えばTNBのライヴで発散してくれていたりする。今の時代、そうでもしないとやっていけないんでしょうね。だから、生きるための逃避というか。今回のアルバムの「S.S.W(スーパー・サマー・ウィークエンダー)」っていう曲ではまさにそのことを歌っています。

――〝ウィークエンダー〟というのは、sirafuさんが敬愛するDJ、MOODMANのファースト・オフィシャル・MIX CD(『WEEKENDER』、02年12月)のタイトルでもありますよね。彼はその言葉について「平日は様々な仕事をしている人たちが、週末のダンス・フロアで生まれ変わり、混ざり合う姿」といったような解説をしていました。

sirafu:宇川(直宏/MOODMANの盟友であるクリエイター)さんに至ってはDOMMUNEを始める時、「週末だけじゃなくて、平日も遊ぼう」みたいなことを言っていましたけどね(笑)。

――確かに、DOMMUNEは仕事帰りの電車の中でも遊べるように、平日の夜、DJミックスを生配信しているわけですよね。平日のライヴ・ハウスにも仕事帰りの人がたくさんいますし、sirafuさんはそういう光景をステージから眺めながら感じたことがあって、「S.S.W」をつくったと。

sirafu:そうですね。僕は今、普通の仕事をしていないですし、そういうバランス感覚についてはお客さんを見ていて学ぶことが多いですね。だから、「S.S.W」は別に応援歌ではなくて、現代の逃避の在り方を歌っているっていうか。その点、〝なつやすみ〟って言葉から読み取れる意味も、結成当初や前作に比べて大分変わったのかもしれません。

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