大森靖子のラブソングは異端にして普遍ーー「きゅるきゅる」に見る作家性とは?

 でも、この主人公はただ指をくわえて待っているわけじゃない。《欲しがらないならあげてもいいわ》《誰でもいいなら私でいいじゃん》と自暴自棄な感じで相手への欲求を爆発させ、《夢ばっかみないで無駄だよザーメン》とイライラをぶつけるのだ。良家のお嬢様が聞いたら卒倒しそうな言葉遣いの歌詞だが、歌ってる大森靖子は現在27歳。考えてみれば、今の20代なんて思春期にエロ画像やエロ動画が簡単に手に入るネット環境で過ごしてきた世代だし、これくらいの発言は大胆でもなんでもない。

 とはいえ、《ヒールはきついし》なんて歌詞が出てくるから、主人公は背筋をぴんと伸ばして会社の廊下をカツカツ音を立てて歩いてるようなタイプではないのだろう。《似合わないけど着てみたいワンピ》とも歌っているから、この曲は、奥手で耳年増な喪女の恋の歌とも取れるし、地味だけど同人誌でイケナイ妄想を膨らませてるこじらせ女子の恋の歌とも取れる。はたまた人気ホストにハマったキャバクラ嬢の恋の歌か、それとも恋愛依存症のビッチギャルの恋の歌か。いずれにせよ、こうして多様な解釈を可能にすることは、彼女の歌詞の汎用性/普遍性の高さを物語っている。

 「セキララ♡ゼクシイ」の調査によると、イマドキの20〜30代女子が何度目のデートで初エッチするかという質問で最も多かった回答は、なんと「付き合う前」! 一方、「マイナビウーマン」が20~30代の男性に聞いた、付き合ってからエッチするまでの期間ランキング第1位は「1カ月くらい」。これじゃ、女子が悶々しちゃうのもわかる話だが、そもそも大森靖子は、男女間のズレや思惑の違いを執拗に描いている気がする。それってラブソングの永遠のテーマ。大森靖子は異能にして普遍、異端にして実に王道な人なのだ。

■猪又 孝
音楽ライター、ときどき編集者。日本のソウル/R&B/ヒップホップを中心に執筆しつつ、カワイイ&カッコイイ女の子もダイスキ。音楽サイトMUSICSHELFで「猪又孝のvoice and beats」を連載中。三浦大知のアーティストブック『SHOW TIME!!』ではメインライターを担当。

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