レキシ×オシャレキシ、年の瀬の真っ向勝負! 池田貴史と上原ひろみのツアー最終公演を観た

 レキシのライブは即興がキモだ。おそらく日本で一番アドリブの多いライブなのではないかというくらい、とにかくその場の気分で、言葉の連想で、いきなり違う曲が始まったりする(たとえば、「姫君shake!」から連想し、「シェイク シェイク ブギーな胸騒ぎ~♪」とSMAPの「SHAKE」を歌い始めるなど)。このような音楽的ノリツッコミが、レキシライブの醍醐味のひとつだ。一方、上原にとっても即興はお手の物。「恋人よ」(五輪真弓)や、シャンソン曲「枯葉よ」、果てはシューベルトの「魔王」まで、気ままに繰り出される無茶なお題にも果敢に応える反射神経の良さはさすがの一言。「なに!? そんなに目をキラキラさせて。何なの!?」というレキシの言葉からも、それを楽しむ彼女の余裕が伝わってくる。

 そしてもうひとつ、今回の即興劇になくてはならない存在感を見せたのは、レキシのバックバンドメンバー。健介さん格さん(奥田健介 from NONA REEVES)や元気出せ!遣唐使(渡和久 from 風味堂)らツアーではおなじみの面々が参加したが、ここまで自由なレキシと上原の掛け合いが成り立つのは、彼らあってこそ。いかに手練れが揃っているかを見せつけられたライブでもあった。

 レキシとオシャレキシの攻防は「ハニワニハ」で和解。「もうあなたの好きにやっていいよ」というレキシのはからいでサンバ調にアレンジされた「salt&stone」、17拍子という変態的なリズムで再構成された「憲法セブンティーン」を披露。そしてその名もずばり「和睦」で、大団円のうちに本編が終了した。アンコールでは1曲目で未消化気味に終わった「狩りから稲作へ」を改めて演奏。今度は「高床式」→「劇団四季」→「キャーッツ!」の流れも滞りなくこなし不完全燃焼を一掃、11曲で約3時間(!)という濃密なステージは幕を閉じた。

 今回改めて感じたのは、予定調和を超えたところにある音楽の楽しさ。もちろん、セットリストは事前に来まっているし、入念なリハも行われる。しかし、その上でいかに自由に立ち回れるかで、ライブならではの高揚感は何倍にも膨れ上がる。名だたるジャズマンたちとステージを共にしてきた上原にとっても、これほど刺激的でスリリングな経験はなかったのではないだろうか。そして1曲ごとに組むミュージシャンを変えるという、いわばコラボ職人であるところのレキシでさえも、今回のライブは新鮮な発見の連続だったことと思う。欲するままに音楽とたわむれ、価値観がどんどん更新されていくような体験。そしてそんな現場を目にすることができるという幸せ。相性がいいもの同士の真剣勝負は、まさに“乱”という言葉がふさわしいカオスで想像を超えた音楽的空間を作り出すことに成功したのだ。

 なお、この日のライブの模様が、2月21日 21時からフジテレビNEXT/フジテレビNEXTsmartにて放送されることが決定。 会場に来れなかった方は、ぜひこの放送で“レキシ的”大事件の真相を確かめてほしい。

(文=板橋不死子)

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