大滝詠一のベスト盤が好セールス リスナーを引きつける“物語性”とは?

 昔からのマニアックなファンやちょっと情報に長けた消費者なら誰でもわかるように、中森明菜の今夏のベストは内容的には特別な作品ではありませんでした。ちゃんと本人の写真がジャケットに使われているもっと網羅性の高い選曲のもっと安価なベスト盤があることは、Amazonなどでちょっと検索するだけでわかります。でも、あのベスト盤は「病気のため長期療養中の中森明菜が久々にリリースする作品」として大きな注目を集めました。大滝詠一に関しても同じようなことが言えます。彼の偉大なる功績をたったCD2枚(初回生産限定盤はカラオケディスクを含めた3枚)にコンパイルして後世に伝えることなんて土台無理な話だし、実際、来年3月には氏の80年代以降の仕事をまとめた作品としては決定版とも言える『NIAGARA CD BOOK II』がリリースされると発表されたばかりです(ファンなら遅かれ早かれ、この作品が出るのはわかっていたでしょう)。やはり今回のベスト盤は、「大滝詠一が亡くなって約1年経ってリリースされた初のベスト盤」として注目を集めたわけです。

 日本の音楽リスナーは、アイドルやバンドのCDを、その成長や成功の「物語」として消費してきた側面があります。また、近年のSEKAI NO OWARIのようなバンドや一部のボカロ系アーティストは自身の作品の中に「物語」を作り上げて、その「物語」にリスナーを巻き込むことで支持を増やしてきました。でも、「本当の人生の『物語』を超える『物語』はないよなぁ」というのが、今週のアルバムチャート、そして今年のアルバムチャートの結果を振り返っての偽らざる思いです。なんだか醒めた物言いになってしまいましたが、今回の『Best Always』のリリースが発表された瞬間にポチって、作品が手元に届いて以来、毎日ずっと聴いている40代のリスナーって、まさに自分のことなんですけどね。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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