メジャーデビュー発表のふぇのたす、ワンマンで見せたハードでフィジカルな一面とは?

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 ふぇのたすの音楽性は、ニューウェーヴやエレクトロポップと形容されているが、実際はそれほど単純なものでもない。たしかに澤ミキヒコが叩くV-Drum(ローランドの電子ドラム)やデジタルパーカッションはサウンドのイメージを大きく決定づけているが、ヤマモトショウのギター・ソロはその枠組みでは収まらない要素がある。音楽性の参照元が複雑なのは、この日会場に来ていたShiggy Jr.と共通するが、ふぇのたすの場合はより見えにくい。しかし、参照元のひとつがヤマモトショウの口から明示されたのが今夜の「有名少女」だった。

 ふぇのたすのハードな一面は、「たびたびアバンチュール」でも顔を出した。V-Drumの低音が響く非常にフィジカルな演奏を聴いていると、根はロックなバンドなのだとも感じる。

 東京の地名を織り込んだ「東京おしゃれタウン」は、ふぇのたすの楽曲でも特に楽しくキャッチーな楽曲だ。「おしゃれ おしゃれ おしゃれ」というコール&レスポンスは、今夜はときに早く、ときにゆっくりとスピードを変えていった。その一方、「チーズケーキコンプリーション」や「ヘッドフォンガール」は、ふぇのたすの楽曲の中でもせつなかったり翳りがあったりする楽曲で、こういう側面もふぇのたすの魅力だ。ふぇのたすのSoundCloudでは、ヤマモトショウが寺嶋由芙に楽曲提供した「ぜんぜん」のセルフカヴァーが公開されているが、ここでのみこの低めの声域を使ったヴォーカルはとても新鮮である。ふぇのたすがメジャーデビューするなら、もっとウェットな楽曲も作って聴き手の情緒を操作してほしい……と考えていたところ、みこが「ヘッドフォンガール」の最中にステージから降りてフロアへと突っ込んでいった。そのままフロアを走り回って、続く「すしですし」は、みこがまだフロアにいるときから演奏が始まった。

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 MCではみこが「カモン鏡開き!」と叫んで、メジャーデビューを祝う樽が登場する場面もあった。ヤマモトショウによる挨拶の後に、YouTubeで調べたという割り方で、みこと澤ミキヒコが鏡開きをし、ステージのメンバーで乾杯(ただし高木祥太は未成年なのでレッドブル)。

 そして本編最後のMCでは、ヤマモトショウがメンバーとファンへの手紙を用意してきたというので驚いた。ふぇのたすというグループは、あまり情緒的な面を表に出さない、理知的でドライなイメージがあったからだ。ヤマモトショウは、2年ほどを振り返って必ずしも順風満帆ではなかったことにも触れたうえで、最後は「ありがたす!」という感謝の言葉で締めくくった。みこが「皆様よろしくお願いします!」と頭を下げると、澤ミキヒコもワンテンポ遅れて頭を下げた。いいバランスだ。

 本編ラストは、初めて3人で演奏した楽曲だという「夜更かしメトロ」。歌い終わると、みこは最前列のファンの手に触れつつステージを去っていった。

 アンコールでは、みこが買ったという自撮り棒を使っての撮影の後、3人のみで「たす+たす」を演奏。ヤマモトショウが抱えたのはダブルネック・ギターだ。久しぶりに見た。澤ミキヒコも立ってデジタルパーカッションを叩いた。ともすれば、キャッチーな楽曲しか世に送り出さないふぇのたすの音楽を「軽いもの」としてとらえられる批評も今後出てくるかもしれない。しかし、今夜のふぇのたすの姿には、楽曲や演奏、歌への強いこだわりを改めて感じた。ヤマモトショウはMCで「変わらず、楽しく、名曲を作り続けたい、それをより多くの人に届けたいと思います」とメジャーデビューへの抱負を語っていたが、サロンミュージックの吉田仁を共同プロデューサーに迎えたふぇのたすの最新作『胸キュン'14』を聴いたときにも、そうした「名曲」のみを作り続けようとする求道者精神すら感じたものだ。ポップミュージックとは偏見や誤解との戦いでもある。ふぇのたすにはそれに負けないタフネスがある、と確信したのが今夜の5人編成によるワンマンライヴだった。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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