「hideは新しい音楽を見つけるのが本当に早かった」市川哲史が振り返るhideの功績

ーーヤンキー的なスピリッツというか、日本的ないなたさみたいなのがありましたよね。

市川:ダサいに決まってるじゃない!(爆愉笑)。日本人ならではの土着的な顔なのに、一所懸命眼を大きく描いてゴスっぽくしようとしてたんだよ? たとえばTOSHIがデヴィッド・ボウイになろうとしても無理じゃないですか。 その無理矢理感や無謀な翻訳魂も素敵でしたねぇ。あとは<足し算の論理>。5人編成のバンドなら洋楽好きなのは3人くらいで、残りの2人はヤンキーだったり音楽に疎かったり。しかも皆の趣味をひたすら足すもんだから、まさにV系とは音楽を超えた日本の思春期文化のコングロマリットだったんじゃないかなぁ。

 まあそういう勘違いはV系に限ったことではなく、BOOWYを筆頭に長く地方出身ロックバンドの十八番なんですけどね。流行に敏感で自意識過剰な都会の若者たちが恥ずかしくてできないと思うことでも、田舎のヤンキーはそもそもそれが間違ってると思ってないから当然恥ずかしくない。しかも自信満々でやるのだから、そりゃ逞しいでしょ。まさに生命力の違い。日本のロックが都会よりも地方や大都市郊外で発達した理由は、そこにあると思うんです。恥知らずの美学というか無知の知というか。

ーーV系ってある種の間違いが生む面白さがあるのはわかるんですけど、評論家・市川哲史が認めた音楽ってありますか?

市川:基本を知らない奴ほど怖いモノはないじゃないですか。僕のV系ベストトラックは、問答無用でBUCK-TICK1991年の楽曲「スピード」ですね。まさに日本初のデジロックで、そのバンドサウンドとデジタル感の合体っぷりはスリリングで恰好よかったですねぇ。おもいきった合体攻撃で。

ーーそれもヤンキーのバイクの改造の美学みたいですね。

市川:わははは。それがカッコ良かったんですよ、定石を知らないからこそ生まれる新しい音楽の可能性というか。僕、かつてDER ZIBETのISSAYのソロ・アルバムをプロデュースしたんですけど――。

ーー94年の『FLOWERS』ですね。

市川:ええ。ISSAYがマニアックな昭和歌謡曲のカヴァーをやりたいって言うから、鈴木慶一さんにサウンドを頼みつつ、当時のV系ミュージシャンたちを揃えたら面白いかなって。でBUCK-TICKの星野英彦にZI:KILLのKEN、THE MAD CAPSULE MARKETSのTAKESHIとMOTOKATSU、LUNA SEAのSUGIZO、黒夢の清春とかもう賑やかなメンツで(苦笑)。皆がスタジオで演奏する中、hideだけは「家でひとりで作ってくるね」と。当時はまだ珍しかった家内制ワンマン・デジタル・レコーディングで「愛しのマックス」を仕上げてきた。そこにその後hideのソロでも活躍するINAがマニュピレーターとして参加してたりしてね。実は自由進取な雑食性って、V系の誇るべき姿勢なんですよ。

 日本初のデジタル・ミクスチャー・バンドといえるTHE MAD CAPSULE MARKETSがメジャーデビューするとき、hideと今井寿から「市川さんとにかくMADを聴いて! 取材して!」とものすごくプッシュされたの。それで一緒に飲みに行ったりして。たしか最初にマッドを『JAPAN』に載せたときは今井&hide&TAKESHIの3人の鼎談でカラー8Pですよ。どうこの大盤ぶるまい(苦笑)。hideと今井っていうのは、自分がおもしろいと思ったインディーズのバンドを損得勘定ゼロでどんどん教えてくれた。洋楽の新しいものを見つけてくるのが今井で、日本の面白いバンドを連れてくるのがhide。

 特にhideはレモネードという自分のレーベルを設立したけどもYOSHIKIのエクスタシーとは違い、もう商売度外視で「自分がいいな」と思った音楽をとにかく世間に伝えたい一心で運営してた。まさにロック・ボランティア。そんなhideを慕う若いV系バンドのみならず、他ジャンルのミュージシャンもワラワラ集まってたなぁ。V系が「ヤンキー的縦社会」であることはこの本でも書きましたけど、もうひとつhideという<生涯一ロック少年>によって作られていた、不器用だけどもとにかく音楽が大好きな連中のモラトリアムな空間が存在してたと思うんですよね。だからhideが亡くなったとき僕は「V系は終わった」とあちこちで書いたのを想い出します。もっといえば<hide以前><hide以後>で同じV系でもその本質は違うんですよね――僕はそう解釈しています。

ーーメジャーデビューする前のCoccoをラジオでプッシュしていたり、キュレーターとしても素晴らしかったですよね。

市川:うん、本当見つけてくるのが早かった。しかも嬉しそうにCD持ってくるのよ、日本にいる時は毎週のように僕の深夜FMにやってきて「コレかけて」って。本当にマメで愛すべきロック小僧でした。もしhideが生きてたら、たぶん日本でいちばん早くサカナクションとかももクロとか絶賛してたと思うなぁ。

 この『誰も教えてくれなかった本当のポップ・ミュージック論』は、実はhideを読者に想定して書いてたりもするんです。「おまえは死んじゃったから知らないだろうけど、日本のポップミュージックはこんなに面白かったりするんだぜ?」と。ジャニーズだろうがK-POPだろうがAKBだろうが面白がるはずだから、あの男は(微笑)。

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