ももクロ×中島みゆき『泣いてもいいんだよ』の歌詞はなぜ刺さる? 瀬尾アレンジが示す“歌の本質”とは

 かたや80年代に中島を始め、長渕剛、チャゲ&飛鳥に代表される、歌謡曲・フォークからニューミュージックに移り変わる時代の象徴とも言えるのが瀬尾アレンジである。重厚ながらもシンプルなサウンドが特徴的。シンセサイザーとストリングスで壮大さを演出し、必要最低限のリズムが鳴る。生ドラムだって大袈裟なフィルはない。それは前述のきらびやかなアレンジとは相反するものである。言わば古さをも感じさせるようなものであり、現在の音楽に求められる斬新さは少ないのかもしれない。たがそれは時世に左右されることのない“歌を活かすアレンジ”として、普遍的なものであることは間違いない。派手なサウンドが持て囃される中で、中島美嘉や華原朋美など、ナチュラルな歌モノ志向の強いシンガーが、中島&瀬尾コンビによる楽曲提供を受けていることからもそれは伺える。

 多彩なシーケンスで構築された楽曲と言えば、一時代を築いたエイベックス所属の楽曲郡に見られるようなもの、その代表格は浜崎あゆみだろう。中島みゆきと浜崎あゆみ、一見共通項の見えづらいこの二人だが、表現方法は違えど、聴き手に訴えかけるメッセージ性に同じにおいを感じる人も少なくはないはず。そしてその二人を繋ぐキーパーソンが今回の楽曲でキーボード&プログラマーとして参加していることも付け加えておく。小林信吾という人物である。中島ライブにおけるバンマスであり、浜崎ライブにおいてはキーボーディスト兼音楽監督という重要な役割を担う。彼が世代も音楽性も違う二人のシンガーを支えていることは、表現の方法は数あれど、“歌”というものの本質は同じであることを示唆している。

 ももクロは歌唱力で勝負するグループではないだろう。だが、今回の“日本の歌”を代表するコンビから提供された楽曲を、自分たちなりの歌い方で表現することにより、歌の本質や詞(ことば)を伝えることとは、決して歌唱力だけに依るものでないことを改めて教えてくれる。「泣いてもいいんだよ」という詞は、聴き手はもちろん、歌ってる自分たちにも言い聞かせるようなメッセージでもあり、実は中島が彼女たちに向けた言葉なのかもしれないとすら思えてくる。

 かつて「FU-JI-TSU」「MUGO・ん…色っぽい」「黄砂に吹かれて」「慟哭」など、代表曲の殆どの作詞を手掛け、工藤静香を歌手・アーティストとして押し上げた中島の存在は大きい。TOKIOは「宙船」の楽曲のパワーをバンドとして、歌い手として見せつけた。「泣いてもいいんだよ」はももいろクローバーZというグループにとって、大きな転機になるのかもしれない。それは、グループとしてこの先もっと飛躍し、振り返ったときにこの曲が今よりもっと大きな存在になっているように思う。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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