アイドルのあり方はどう変化してきたか  気鋭の論者が43年分の名曲群から読み解く

栗原「クリエイターは無名性の方へ引っ張られていっている」

——作曲家、編曲家などのクリエイターについて、なにか傾向的なものは発見できましたか。

栗原:傾向というか気になったことなんですけど。僕は主に古めの時代を担当していて、最近のアイドルはさんみゅ~とDancing Dollsだけだったんですけど、作家陣が妙に匿名的なんですよね。さんみゅ~は3rdシングルまで過去曲のカバーで、4thの「これが愛なんだ」で初めてオリジナルが書き下ろされました。最近は、新曲を披露するにあたって、まずYouTubeにMVがアップロードされますよね。そのとき、初のオリジナルだということで「誰が書いたんだろう」とクレジットを探したんだけど、どこにも書いてない。オフィシャルサイトに行っても、最初は、誰が作詞作曲なのかわからなかったんですよ。現在は載ってますが。あのサンミュージックが手塩に掛けているアイドルなんだし、ビッグネームを起用して、「さんみゅ~初のオリジナルは!」ってドーンと行くんだろうと思ってたのに全然そうじゃない。かつてなら「作詞Seiko! 作曲坂本龍一!」(岡田有希子「くちびるNetwork」)とか作家陣の名前をフィーチャーして売り出すところだけど、そういうことを仕掛けてこない。昔に比べると、作家に対する重きが下がっているのかな、と思いました。

 Dancing Dollsにしても、やはり3rdまでは既存曲をアレンジしたもので、フレーズサンプリングしてEDMにマッシュアップして、みたいなことをやってたんですね。3rd「DD JUMP」で言うと、『LOVEマシーン』のサビとリフだけ持ってきて、新しい別のメロディをカウンター的にかませて、というような。プロダクト的にかなり手の込んだことをやっているのに、でも、誰がその新しい部分をつくって、全体をプロデュースしているのか、もちろん調べればわかるんだけど、あまり前面には出していない印象でした。

岡島:ひとつ言えるのは、アイドルが沢山いるので差別化しないといけない、というところですよね。同じ人が別のアイドルに書いていたら差別化ができなくなっていきます。また、今は事務所が主体になって作曲家を選びます。見せ方が変わってきたのかもしれません。

さやわか:「大作家」が成り立ちにくくなった、ということですかね。

栗原:agehaspringsのようなプロデュース集団がけっこう象徴的ですよね。Tomato n'Pineとか9nineとか「ああ、agehaspringsの音だなあ」とは思うんだけど、個々の楽曲を具体的に誰が作っているのか、というのはあまり注目されなかったりする。というより、これだけ売れているのに、agehasprings自体の知名度が一般レベルではかなり低いですよね。

さやわか:昔ながらの音楽業界にあったような作曲家、作詞家というシステムはもうないでしょうね。いまの作曲家は、イメージとしてはDJとかの方に近いのかな? いろんな作家がいろんなアイドルに、入れ替わり立ち替わりで曲を提供する感じ。

岡島:コンペとかも多いですしね。

さやわか:松田聖子のようなやり方はもうないんでしょうね。そういう意味で、今のアイドルはファッションも音楽も、何でもコラボでやっているようなところがあります。「今度は○○とももクロがやります!」みたいな。だから作家も一定しないのかもしれませんね。

栗原:あるいは、AKBの井上ヨシマサさんのように、存在感のある片腕的な人でがっちりイメージを固めるとか。ハロプロも割とそうですよね? つんくという看板が作詞作曲して、脇を固めるアレンジャーで色を出していく。ただ、アイドルシーン全体を見ると、クリエイターは無名性の方へ引っ張られていっている気がします。

岡島:有名どころでの例外は「Perfume - 中田ヤスタカ」くらいかもしれません。

さやわか:中田ヤスタカはそういう意味でやっぱり面白いというか、変わったタイプの人ですよね。中田ヤスタカだけは、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅに対してプロデュースし続けていて、しかも自分の名前を失わない。

栗原:Perfume自体がそもそも、アイドルというには異質だった気はします。メジャーデビューしたときにはすでにテクノポップにシフトしたあとで、見せ方も一般的にアイドルと言われる感じではなくなっていた。「リニアモーターガール」や「コンピューターシティ」、「ポリリズム」のMVをいきなり見た人は、彼女たちをアイドルと思ったでしょうかね?

岡島:アイドルじゃなくアーティスト路線ですよね。売れるまではアイドルイベントにもいっぱい出ていましたし、ファンもヲタだったので。そこで勝ち上がっていってアーティストになっていったのがPerfumeかと。しかし、同じようなやり方でのし上がっても、ももクロはアイドルと言い続ける。

さやわか:Perfumeと似たような見方をするのはBABYMETALとかなんでしょうね。アイドルっぽい売り出し方をしながらだんだん音楽性、アーティスト性にシフトしていく、という。

岡島:BABYMETALはアイドルシーンが成熟した、ももクロ以降で一気に来ました。もはや接触しなくても売れることができる、という市場が広がった状態だからできたとも言えます。

栗原:Perfume、BABYMETAL問題(笑)は、SPEEDがアイドルなのか、安室ちゃんがアイドルなのか、ということと似たところがあるのかな。スーパーモンキーズはアイドルだったと思いますけど(笑)、安室奈美恵でソロになるとアイドルとは呼びにくい雰囲気になっていった。Perfumeは、宇多丸さんや掟ポルシェ氏なんかがインディーズ時代から「アイドル界最後の希望」と言ってずっとサポートされてたわけですが、メジャーデビューの時点でPerfumeは、彼らが初期に見てた「アイドル」のイメージを、抜け出るというか超えてしまっていたんじゃないかと思うんですよね。時代的にも、モー娘。のピークが過ぎて、AKB48がオーバーグラウンドになる前の過渡期で、アイドル評価の文脈が曖昧な時期でもありましたよね。

さやわか:Perfumeは単にサウンドのクオリティが高かった、ということもありますよね。過渡期だからだとも思いますが、当時のPerfumeのファンで、それを指して「アイドル“なのに”曲が良い」ということを好んで言う人たちはいました。これはたとえアイドルに好意的でも、どこか劣った印象を持っている人はそういう言い方をすることが多かった。しかし、時代としてはアイドル“なのに”とか“だから”とか関係なく「単純にいいものはいいじゃん」という風潮に、Perfumeくらいから変化しつつあったんだろうな、と思います。そういう意味でこの本も「アイドル“なのに”こんなにいい曲があります」という視点じゃないところが今っぽくていいところだなと思います。

ピロスエ:アイドル「なのに」とかアイドル「らしからぬ」とか、そういう発言をしている時点でアイドルを下に見ているということですからね。

栗原:いつの時代も、市場が大きくなって、文化として勢いのあるところには人材が集まってくるから、クオリティが高くなるのは当然なんですけどね。音楽雑誌なんかも、今やアイドルを扱わなければ成立しなくなりつつありますし。

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