「みんなが疲弊しないアイドル環境を作りたい」濱野智史が“厄介ヲタ”になりかけて決意

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自らも「厄介ヲタ」になりかけたという濱野氏。

――なるほど。ところで最近、佐村河内守氏の別人作曲問題が大きな話題となっていました。作品にまつわる物語を含めて評価すべきか、それとも純粋に音楽そのものを評価すべきかというところで意見が別れているケースが多いようですが、アイドルカルチャーに即した場合、この問題はどのように捉えられますか。

濱野:「物語」とセットで「作品」を消費するというのは、アイドルの世界だとあまりに当たり前すぎることですよね。アイドルがスターへの階段を登っていく「高揚感」とか、アイドルへの高まる「恋心」といったストーリー込みで楽曲に感情移入するからこそ、それはヲタにとっての「神曲」になるというのは、よくあることです。もちろんアイドルの世界にも、音楽そのものを楽しむ「楽曲派」と呼ばれるファンもいますし、一方ではとにかくMIX入れてヲタ芸して騒げればいいというヲタもいる。しかし僕は、そういった異なる見解のファンが集まるからこそ、現場は盛り上がるんじゃないかと考えています。

 というのも、この話で思い出す光景があります。ちょうど一年半前くらいにBELLRING少女ハートのファーストワンマンに行ったのですが、そのとき僕がざっと見た感じだと、観客は楽曲派が約2割、アイドルヲタクが約4割、サブカル層が約4割くらいだったんですね(数字は適当ですが)。で、この中で一番熱心だったのが、実はサブカル層だった。もともとアイドルにそれほど興味がなかった層なのかなと思うんですが、免疫がなかったがゆえに「ガチ恋」的に高まっていて、自己紹介のときにガチ恋口上(「俺が〜生まれてきた理由〜」的なやつ)を入れている。で、いっぽうのアイドルヲタク集団はそんな彼らを冷めた目で見ていて、すごくアイロニカル。斜に構えているから、もともとちゃんと見る気もないし、背面ケチャしまくったり、メンバーをいじったりして遊んでいる。で、楽曲派に関しては、両方から距離を取ってひたすら曲に集中して体を揺らす、と。で、最後に定番のモッシュ曲が始まると、その全員がもみ合いになるんですね。まあ、おたがい派閥が違って敵視しているからなのか、これがとにかく激しくぶつかり合うんです。しかしながら、結果としてその現場は異様なほど盛り上がるわけですよ。つまり、立場や価値観が異なるもの同士がぶつかり合うことでこそ、一体感や熱気が生まれることもあるんですよね。まさに「祝祭状態」というか。もちろん、それが暴力沙汰になってはだめですが、アイドル現場においてはどちらの立場が「正しい」とかではなく、現場が「面白く」なればそれで良いと思います。

――興味深い現象ですね。

濱野:これは余談なのですが、サル学で有名な京都大学霊長類研究所の山極寿一先生と先日対談するきっかけがあり、著書の『暴力はどこから来たか』を読んだんですが、これが面白いことに、そこで書かれているゴリラの生態観察レポが、アイドルの現場で起こっていることとすごく似ていたんですよね。ゴリラたちは、食事や生殖相手といった「資源」の奪い合いが起こらないように、うまく暴力が発生しないようなコミュニケーションの作法を身につけている。たとえば小競り合いが起きた時にどうするかとか、これ以上近づかないでって威嚇しあうとか、群れの20頭くらいで一体感を感じる「共鳴集団」を形成したりとかなんですが、ほんとにゴリラとドルヲタってほとんど完全に一致していて(笑)。だってヲタも現場で、「良ポジ」や「レス」といった希少な資源をめぐってまさに小競り合いが起こるわけですからね。いや、冗談でなくあまりの一致ぶりに驚いてしまいました。

 でも、これって考えてみればこれは当たり前のことで、だってアイドル現場のライブ中って、大音量の音楽が鳴ってて互いに言葉がほとんど使えないから、人間がサルだった頃の、非言語的なコミュニケーションの形式に頼らざるを得ないわけですよ。アフリカとかまで行かなくても、地下現場にいけば人間がもともと本源的にもっていたサルとしての生態は観察できるわけです。

 そう考えると、やっぱりアイドルの現場ってつくづく奥が深いなって思います。ヒトがサルに戻るという意味で「動物化」は快調に進んでいるとも言えるんだけど、それは決して退化とか退行ではなくて、もともとヒトがサルだった頃のコミュニケーションの可能性を再び掘り直しているって感じがします。なんだか妙にでかい話になってしまいましたが(笑)、僕がアイドルを作るからには、こういったアイドル現場特有の「生態」をもっと突き詰めた上で、プロデュースもやっていきたいなと思っています。
(取材・文=神谷弘一)

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