ダフト・パンクのグラミー賞パフォーマンスは、なぜ“歴史的事件”だったのか

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白いヘルメットとスーツという風貌も新鮮だった。© 2014 WireImage

 クライマックスは、最初真っ暗だったスタジオブースを覗くコントロールルームの窓から、突然真っ白なヘルメットとコスチュームに身を包んだダフト・パンクの2人が現れた瞬間だった。「ゲット・ラッキー」(ダフト・パンク)→「おしゃれフリーク」(シック)→「アナザー・スター」(スティーヴィー・ワンダー)という驚きのメドレーが生演奏で繰り広げられる中、2人はコントロールルームのミキシングコンソールから、「ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス」「仕事が終わらない」「アラウンド・ザ・ワールド」といった自分たちの曲をマッシュアップしていく。それは、70年代から現在まで綿々と繋がってきたダンスミュージックの歴史を、たった5分30秒に凝縮させてしまったような、奇跡としか言いようがないパフォーマンスだった。

 ステージ上から一瞬たりとも目を離したくなかったので、正直言っていい迷惑だったのだが、グラミー賞の中継カメラは会場全体がダンスフロア状態となった客席のセレブミュージシャンたちを頻繁に映していた。そこでビヨンセやJAY-Zやケイティ・ペリーがノリノリで踊っているのはわかるとして、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、スティーヴン・タイラー、そしてオノ・ヨーコまでが踊り出している光景には、「みんな、テレビの向こうの目を気にして無理して踊ってない?」と思わず心配になってしまった。

 一方、日本のミュージシャンの間でも、その衝撃はSNS上で瞬く間に広がっていった。OKAMOTO’Sのハマ・オカモトは「夢と希望をありがとう!!!」と同業者としての感動をツイートし、Base Ball Bearの小出祐介は「ギターを始めた時、ディープ・パープルよりも先にシックを知っていたら、たぶんまた別の人生だったな僕」と自身の音楽原体験にまで思いを巡らし、マイケル・ジャクソン・フリークの西寺郷太はベーシストのネイサン・イースト(マイケル・ジャクソンの名曲群のプレーヤーでもあった)のプレイに賛辞を送っていた。その後も、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文をはじめ、動画サイトでライブ映像を見た多くのミュージシャンが思わずその感動を呟かずにはいられなかった模様。かつて、日本のミュージシャンの間でグラミー賞での一パフォーマンスがここまで反響を呼んだことがあっただろうか。その点においても、今年のグラミー賞でのダフト・パンクのパフォーマンスは、あまりにも特別なものだった。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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