坂本龍一がシンセサイザーの歴史を語る 「自分にとって革命的な楽器との出会いだった」

 1970年代になると、様々なミュージシャンがシンセサイザーを使った独自のサウンドを生み出すようになった。ここではシンセサイザー独特の音色をベースラインに使用したハービーハンコックや、シンセサイザーのサウンドとロックの融合を提唱したタンジェリン・ドリーム、シンセサイザーを前面に押し出した「テクノミュージック」を世に広めたクラフトワークを紹介。これらの音楽と同時期である1978年、坂本は『千のナイフ』でデビュー。坂本はこの音楽に到達するまでに影響を受けた音楽として、ドビュッシーを挙げた。中学生の時にブタベスト弦楽四重奏に出会い、ノイズに宿る音響としての魅力にとらわれたそうだ。坂本はこのことを「サワリ(琵琶や三味線などの弦が振動する時、楽器本体と触れる事で生まれるノイズを含んだ響き)のような、日本人向きな音色の趣向がそうさせた」と分析した。

 1970年代後半以降、シンセサイザー以外の電子楽器も多数登場してきた。MC-8は、音符を数値に置き換えることにより、シンセサイザーに自動演奏機能を付与し、およそ人間では出来ない演奏を可能とした。1980年代になると様々な音声を録音し、それを1つの単位として使用することが出来るコンピューターを内蔵したフェアライトCMIが登場した。1985年に坂本が発表したアルバム『エスペラント』でもこの楽器は多く用いられている。1つ1つの音を単音でなくフレーズで録音し、ランダムに切り出すことで様々な音の要素を作る。その音を並べ変えて再構築し、1つの曲としたのだ。坂本は「サンプルした物をどう組み合わせていくか。サンプリングした1秒の中に起こる音楽的イベントをループしたり反転したり、ずらしたり。エリック・サティなどが小節を数字でコントロールしたようなことを機械で可能にした、自分にとって革命的な楽器との出会いだった」と話し、三輪は「電子楽器の発展により、楽器は人間が操るものという概念ではなくなった」と、人力で出来る技術を超越して発展した電子楽器について統括した。

 番組の最後には、坂本と松武による大型と小型のシンセサイザーを使用した、ノイズミュージックの実演。松武はモーグシンセサイザーの代表モデルであり、YMOのレコーディングでも使用されたIII-Cを、坂本はピンクフロイドやレッドツェッペリンの楽曲でも用いられたイギリスのSynthi AKSを使用。サイン波から徐々にノイズが大きくなっていく様子で今回の内容を振り返りつつ応用編へ。どこかアンビエントにも似たノイズミュージックに展開していった。

 現在の音楽にも多大なる影響を及ぼしている「シンセサイザーの誕生とその後の電子楽器の発展」について、深く解説した同番組。次回、1月31日の放送では「メディアと音楽」について講義する予定だ。
(文=中村拓海)

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