坂本龍一が「録音・再生技術の発展」を解説 「録音によって人類は自然界に存在しない音を聴いた」

 音楽を体験しながら学ぶ「スコラ・ワークショップ」のコーナーでは、電子音楽の発展に大きな役割を果たしたテープ・レコーダーに触れてみることに。参加したのはヴァイオリンやピアノなどの楽器を習っている4人の高校生。テープ・レコーダーをセッティングし、まずは『我が輩は猫である』の朗読を吹き込んだ。朗読がしっかり録音されていることを確認すると、講師となった川崎は「音を録音できるということは、音を手で扱えるということ」と話し、手でリールをゆっくり回したり、早く回したりして、音声を変化させた。また川崎は「録音技術が生まれる前は、音をあんなに遅くして聴くという体験はできなかった。(中略)今から60年前には、この音に想像力を刺激された作曲家や放送技師がたくさんいた」と、当時の状況を語った。さらに倍速にすると、周波数が2倍になり、音程が1オクターブあがること、逆再生すると、現実には存在しない音も聴けることを解説した。

 電気の力を使った新たな音の追求は、テープ・レコーダーの発明以降も続く。1951年に入ると、世界初の電子音楽スタジオが北西ドイツ放送局内に誕生。作曲家のシュトックハウゼンを中心に、このスタジオから革新的な音楽が生み出されることになる。電子音楽スタジオに導入されたのは、信号音声の発振器。ラジオやテレビの放送で、音声の基準レベルを定めるために開発されたものだ。発信器は、正弦波と呼ばれる波を発振する。この波は、ピアノなどの音が複数の周波数で発振されているのに対し、単一の周波数のみを発振、自然界には存在しない音となっている。これにより、作曲の可能性は大きく広がった。三輪は「電子音楽スタジオで面白いのは、人間にはできない完璧な演奏を耳にしたいという欲望でスタートしていること。いろいろと考えさせられますよね」と、感想を話した。また坂本は「YMOをやり始めた頃、安価に使える邦楽用のコンピューターが出てきて、人間の演奏では聴いたことがないような精密さとか、早さをコントロールできるようになった」と、当時の驚きを語った。

 1955年には、日本初の電子音楽スタジオがNHKに作られ、独自の試みが始まった。川崎は「NHKの電子音楽スタジオの特質は、毎回作曲家とプロデューサーがディスカッションを重ね、『こういうものが作りたい』『じゃあこういう機械を作ろう』と、その都度新しい機械を作り、一曲作るという、非常に贅沢な作品の作り方ができたところだと訊いています」と、当時の音楽家たちの姿勢について語った。同スタジオでは、黛敏郎、武満通、湯浅譲二らが、実験精神に富んだ作品を残している。

 続いてのワークショップでは、録音したテープを切ってざるの中に入れ、目をつぶってそれを取り出し、順につないでいくという手法を紹介。そうすることによって、音楽に不確定性や偶然性を取り入れようという試みで、1950年代、アメリカの作曲家であるジョン・ケージが提唱した方法論だ。実際にピアノの楽曲が録音されたテープを自由に切り貼りし、再生してみると、ところどころに原曲のフレーズが聴こえながらも、逆再生のパートや意外な展開が次々と立ち現れ、斬新かつユニークな楽曲に仕上がった。

 番組の最後には、坂本が演奏するハモンドオルガンを複数のテープ・レコーダーに録音。それらを手で再生しながら、さらにリアルタイムでピアノ演奏を録音。次々と重ねることによって、幻想的かつスペーシーなアンビエント作品となった。

 音楽に革命的な進化をもたらした「録音・再生技術の発展」について、深く解説した同番組。次回、1月23日の放送では「シンセサイザーの誕生とその後の電子楽器の発展」について講義する予定だ。
(文=編集部)

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