でんぱ組.inc配信ライブで魅せた、空間演出ユニット・huezの力 「変わりゆく世界における、ライブ演出の行方」

でんぱ組、配信ライブ演出の裏側

 テクノロジーの進化に伴い発展するライブ演出。この潮流のなかで特異な存在感を示すのが、「フレームの変更」をコンセプトに掲げる空間演出ユニット・huez(ヒューズ)だ。ライブ演出における“ヴィジュアル”と “光”の専門家が集まるユニットで、アーティストの物語に寄り添った演出を得意とする。本連載「3.5次元のライブ演出」ではhuezのメンバーを迎え、先端技術のその先にあるライブ体験の本質的なキー概念について、具体的な演出事例を交えながら語ってもらう。

 第4回となる今回は、5月16日に行われたでんぱ組.incの生配信ライブ『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE』にフォーカス。でんぱ組.incは5月2日からライブツアー『THE FAMILY TOUR 2020』の開催を予定していたが、新型コロナウイルスの影響でツアーは全公演中止。代わってこのライブがオンラインにて開催された。当ライブの演出を担当したhuezの、生配信ライブならではの演出とその意図について掘り下げていく。(白石倖介)

急ピッチで進められた「配信ならでは」の絵作り

ーーでんぱ組.incの生配信ライブについて、演出に携わった経緯をお教えください。

YAMAGE:もともとでんぱ組のプロデューサーのもふくちゃんは、うちのとしくにとYAVAOが6年来の付き合いがある方なんですけど、としくにがもふくちゃんと連絡を取るなかで、「5月16日にスタジオを借りて生配信ライブをするので、VJと照明をお願いできないか」とオファーをいただいたんです。それが『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE』でした。ライブに向けてスタッフ用のLINEグループが組まれ、生配信ライブの構想を知ったのは5月6日のことでした。

『THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE』ロゴ

ーー本番10日前のオファーだったんですね。

としくに:動いたのは話をいただいた3日後なので、作業日程は実際1週間です。まずはロケハンでスタジオに行きました。箱は「ハードウェア」なので、まずはその動作要件をチェックしに行った、という感じです。ライブを見ていただいたらわかると思うんですが、スタジオがいくつかの部屋に分かれていて。レコーディングスタジオみたいにメンバー6人が全員別の部屋に入って、それぞれがワンカメでずっと正面に向かって歌うという環境でした。

ーー6人が別々の画面に区切られてZoom風の画角に並ぶ、というスタイルはどこで決まったんですか?

としくに:これはもう、最初からその形で依頼を受けました。「この形でおもしろくやってほしい」と。

YAMAGE:最初にご依頼いただいた条件が「6人別室でZoom風に撮影」「ただ、背景とか画面上が寂しくなってしまうのでそこをなんとかしてほしい」「生配信ならではの演出があると嬉しい」というもので、それに応じるような形でした。

YAVAO:そこはもふくちゃん、すごいですよね。そのフレームでやろうと言ったことにセンスを感じます。

Zoom風の画角で進行したライブ風景

としくに:この3月〜4月はたくさんのアーティストがZoomやYouTubeでの生配信ライブを模索していて、もふくちゃんとも「画角が限定されてしまうよね」という話をしたんです。その上での依頼だったので、この「Zoomっぽい画角」をどうやって別の見せ物に切り替えるかが根本的な大きな課題でした。

 実際のところZoomは使っていないので、「Zoom風の6分割」なんですが。僕らなりの演出でとりあえず1つ、正解だと思えるものを回答として出してみよう、という流れでした。そこからは記憶がなくなる程度に忙しかったです(笑)

ーー場当たりの後、制作はどのような流れで始まったのでしょうか。

としくに:huezのいつもどおりの流れで役割分担をして、組んでいきました。まず全体の演出プランを僕が組んで、たとえばセットリストに対してどんなエフェクトかけていくのかを僕が決めて、あとは各スタッフに「この曲をこういうテーマで演出してください」って振って、同時進行で作業を進めていく。

YAVAO:としくにさんの演出視点とエンジニア視点の2つが同時に走っていたという印象でした。

としくに:これはライブあるあるなんですけど、詰め込めばいいってものじゃないので、緩急をちゃんと付けるためにまずは最初にプランを組みます。以前の記事で書いている、CY8ERのライブでやっていたようなタイムシートを組んで、「どの楽曲がピークで、こういうところを見せたい」という演出をブロックごとに作っていく。順番に曲を聴いていけばセットリストの意図もある程度わかるので、きっとここで盛り上げたいんだろうな、と咀嚼しながら組んでいきました。基本的にもふくちゃんから「演出はお任せです」って言われていたので。

ーー見せ方も、ステージと画面では全く変わってきますよね。

としくに:配信になると見栄えが変更されちゃうので、今までのライブと同じような見せ方をする意味がないんですよね。あと、レーザーのようにステージじゃないと使用が難しい機材もある。今までは「生ライブが美しいこと」を一番に優先したわけですが、その生ライブがなくなってしまったので、「配信映えすればなんだっていい」というルールで取り組みました。

 映っているところがすべてなので、極論、映っていないところがどんなにぐちゃぐちゃであってもかまわない。例えばステージ上だと照明や演出機材を置いたときに、ケーブルの配線が汚くて下がぐちゃぐちゃだと舞台の見栄えに影響します。でも配信では本人たちの画角に入らなければ、ケーブルがどこにあっても、どんな配線をしててもいい。そういう意味では見せ方は根本的に変わります。

ーーメンバーさんがいらっしゃる場所に対しての演出と画面上で行う演出のバランスなども、かなり序盤で決めているのでしょうか。

としくに:そうですね。まず、今回期間中に作れる・使える演出上の“武器”をhuezのメンバーに聞いて、これくらいの数の武器がありそうだっていうのを見積もります。あとはそれをどこでどう活かしていくかっていうのも、一番最初にざっくり決めます。ほぼ何もしていない曲もあるんですよ、ただ下に歌詞が出るだけとか。まずは曲にどんな武器を当てるかを決める。その次はこの曲のどの歌詞の部分で入れるかを決める、みたいなイメージですね。

セットリストと演出の対応表。メリハリを付けた演出が組まれている。

ーー“武器”の中にはYAVAOさんが新規に起こしたものもあったんですか?

YAVAO:今回はシステムがめちゃめちゃ複雑で、新規に起こすというよりも、試行錯誤しながら日々良い方向にカスタマイズしていくっていう感じになりました。音の出力遅延があって、それに一番苦しみましたね。

 TouchDesignerで受けるPCを2台体制にして、「YAVAOデスクトップ」と「ハガデスクトップ」(下記配線図参照)が常に2台生きている状態を作って、最悪どっちかのPCが死んでも片方に切り替えればなんとかなる、っていう状態にしていました。

 画面上の細かい話をすると、メンバーが6分割されるデフォルトの画面だけは4Kで受けていて、でも画面上のエフェクトはFHDです。メンバーを1/6で切り抜いてエフェクトを掛ける場面とかがあるんですが、4Kを使わないとかなり画質が落ちてしまうので。ソロショットはソロショットでスイッチャーさんが切り替えていたのでそこは綺麗に出るけど、6分割からズームしていく演出や6分割の1つがたまに大きくなる演出で解像度が落ちてしまうので、そこら辺は気にしつつやっていました。

配線図。図上部ではSDIから「ヤバオ Desktop」への信号が2160P(4K)で送出されているのがわかる。

としくに:今回のカメラ・配信チームは、もともとでんぱ組でずっとやっているチームの方だったので、どこでソロショットを撮るのかっていう振り方がもう決まっているんですよ。なのでカメラチームの人たちから、「ここは誰のソロ、ここはメンバー全員」みたいな歌割り+カメラ割の表をいただいて、後々huezの演出的に「ここは全員映して欲しい、ここからはソロに戻して大丈夫です」みたいな調整をさせてもらいました。

ーーhuezさんのチームで音と映像の完パケのようなものが出来て、それを配信チームに渡すというようなイメージですか?

YAVAO:そうです。めちゃめちゃ緊張しました、うちが大根本なので。

YAMAGE:音と映像の遅延がないかを耳と目で確認して。それを配信チームにお戻しすると。

YAVAO:一番苦しんだのは、6画面とソロショットを誰が切り替えるのか。配信チームのスイッチャーさんに切り替えてもらうのか、うちで切り替えるのかっていう。6画面用のエフェクトとソロショット用のエフェクトで全然質が違って、6画面用にかけているエフェクトが1画面用にかかると気持ち悪い画になっちゃうんですよ。じゃあスイッチングを全部うちで巻き取るか?っていうとさすがに無理だったので、こちらの演出の都合で必要な箇所だけはYAMAGEがスイッチングをやっています。

YAMAGE:その最適化を思いつくまでにかなり時間がかかりました。

としくに:言ってしまえば舞台が6つあるようなものなので、6人の画面を全部バラバラで制御しなければならないし、加えて本来、映像編集でやるような演出を生配信でやらなければならなかったので、とてもえぐいオペレーションにはなりました。

YAVAO:前日の深夜3時くらいにエフェクトの順番が決まって、そこから覚えるみたいな。

YAMAGE:普段だったら本番の何日か前にメンバーとスタッフが集まるリハーサルがあり、それに間に合うように動くのですが、今回はイレギュラーだったので、前日の夜にhuez内で通しリハをやって、そこでいろいろ洗い出して……っていうギリギリの進行でした。

楽曲の進行表。歌割りに合わせたスイッチング・エフェクトのタイミングなどが組まれている。

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