『スマブラ SPECIAL』は誰のためのゲームなのか? “eスポーツ化するスマブラ”と“誰でも遊べるスマブラ”

eスポーツ化するスマブラ

 アメリカ・ロサンゼルスで「E3 2018」というゲーム業界の一大イベントが実施され、それに合わせてニンテンドースイッチ向けタイトル『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラSPECIAL)が発表された。

 『スマブラ』というのはとにかく豪華な対戦アクションゲームだ。誰もが知っているマリオはもちろん、ルイージやピーチ姫、あるいはカービィやピカチュウやリンクだって登場する。近年の作品ではメーカーの垣根を超え、ソニックやパックマンにロックマン、『メタルギア』シリーズのスネークや『ファイナルファンタジー7』のクラウドだって出ているのだ。登場キャラクターは、記事執筆時に発表されているだけで65種類(厳密には68種類)。ゲーム業界において最も豪華なコラボ作品と言っても過言ではない。

 当然ながらこの発表に日本が、いや世界が湧いた。新作となる『スマブラSPECIAL』はこれまでシリーズに登場した全キャラクターが参戦、さらに新キャラクターとして『スプラトゥーン』の「インクリング(イカ)」などが加えられており、スペシャルの名にふさわしい内容になっているのだ。ゲームは前作のWii U版がベースとなっているようだが、開発期間が短いためそこはファンも納得しているのだろう。

 ところで、本作が発表されてからSNS上では「なんだか『スマブラ』がすごく難しいゲームになっている気がする」なんて意見が話題になっていた。確かに『スマブラSPECIAL』はものすごくスペシャルなのだが、同時にちょっと気にかかるところもあった。

格闘ゲームに対するアンチテーゼとしての『スマブラ』


 そもそも1999年にニンテンドウ64で発売された初代『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』は、ジャンル表記に従えば“アクションゲーム”である。確かにマリオやカービィたちが戦うが、やはり格闘ゲームという表記ではないのだ。

 本シリーズのディレクターである桜井政博氏は当時『スマブラ』を作る際に、いわゆる2D格闘ゲームに対するアンチテーゼとして本作を作ったと語っている。格闘ゲームは操作が難しく覚えることも多いため、だからこそ『スマブラ』は簡単に必殺技を出せるし、いきなり出てくるアイテムやステージの妨害によってハチャメチャになる。上手い人も下手な人も、アクシデントに一喜一憂して楽しめる作品として人気を博したわけだ。

 とはいえ、いくら『スマブラ』と言えどもプレイヤーの腕が出ないわけではない。うまく操作できればどんどん勝てるようになるし、練習すれば強くなる。こうなると純粋な腕を競いたくなるプレイヤーが登場し、中にはアイテムや妨害といったランダム要素を嫌うプレイヤーも出てくる。

 シリーズが続くと、アイテムや地形など邪魔な要素をなくして戦うということが一般化されていく。いわゆる「終点タイマン」という戦いだ。これにはほとんど運要素がなくプレイヤーのテクニックが問われる1対1の戦いになるわけで、格闘ゲームに対するアンチテーゼだったはずの『スマブラ』が、むしろそれそっくりになっていったのだ。

 もっとも、この段階では“そういう遊び方も支持されるようになった”というだけに過ぎない。4人で遊ぶモードがなくなったわけではないし、ひとりで遊ぶこともできたし、特殊ルールで楽しむことだってでき、ハードが進化するとおもしろい写真を撮れたりなど、遊びの幅は広かった。一方で「終点タイマン」は格闘ゲームの大きな大会で正式種目として採用されることにもなっていき、それこそ流行りのe-Sportsタイトルと言えるようにもなった。

 そして次第に“『スマブラ』をやりこんでいる”ということは“「終点タイマン」をやりこんでいる”という意味になっていった。そして、E3 2018で発表された『スマブラ SPECIAL』の紹介映像は──。前作から変化した部分の紹介において、「どんな楽しいことができるか」というより「ダッシュキャンセルスマッシュが追加された」だとか、「空中回避の移動距離が増えた」だの、細かい内容の変化についての言及がかなり多かったのだ。

 ダッシュキャンセルスマッシュ? 空中回避の移動距離アップ? おそらく『スマブラ』をやりこんでいない人にとって、これはよく意味がわからないだろう。だがこれは、競技としての『スマブラ』にとってはとても大きな変化となりうるし、とても大事なことである。たとえばスポーツでルールが変わったとしたら、それは審判や競技者にとって無視できない大きな要素となるだろう。

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