『ピアノの森』CG使いに見るピアニストへのリスペクト リアルな運指と背景の作り方 

『ピアノの森』CG使いの巧さ

フォトグラメトリによる本物の質感を持った背景


 もうひとつ中谷がこだわったのは背景だ。1話冒頭のショパンコンクールのシーンは、ワルシャワのフィルハーモニーホールという実在の場所だ。ここでは実在する場所のリアリティを追求するために、中谷は「フォトグラメトリ」という技術でホールを再現している。

 これは複数のポイントで立体物を撮影し、その二次元データを基にして立体的な3DCGデータを作成する技術で、映画やアニメ、360度視界のVRコンテンツなどに用いられている。有名作品では『ブレードランナー2049』などでも使われているという。この技術の利点は、元が実写の写真なので、そのリアルな質感を保ったまま絵にできるという点だ。中谷は「これをゼロからCGで作成すると、相当な時間がかかる」と語っているが、フォトグラメトリを利用することで、短時間でリアルな質感を持った背景が作れるわけだ。本作はこの技術によって、キャラクターの演奏だけでなく、舞台の写実感によって作品全体のリアリティを底上げしている。

 『ピアノの森』は本物のピアニストになろうとする少年たちの物語だ。ならば映像にも音にも嘘は少ないほうが良い。作中の演奏音は、プロのピアニストを、しかもキャラクターごとに別のピアニストを割り当てて録音しているが、映像面においてもCG技術によって本物を取り込むことによって、音の存在感に迫ろうとした。作品全体に作り手の愛と、“本物”へのリスペクトが感じられる作品だ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■作品情報
TVアニメ「ピアノの森」
NHK総合テレビにて毎週日曜24時10分より放送中
※関西地方は同日24時50分から
※放送日時は変更になる場合も
TVアニメ公式サイト:http://piano-anime.jp
(C)一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ

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