YouTube本社銃撃事件の海外メディア報道に見る、アメリカ銃議論の複雑さ

 カリフォルニア州のYouTube本社で女が銃を乱射して3人の負傷者を出し、自殺をした事件に関して、日本語でも詳細なレポートが出されている。本稿ではアメリカを中心とする海外メディアの反応から、アメリカの銃にまつわる様々な思考フレームを考察したい。

 今回の事件は、多くの人が想定していなかった犯人像を見せた。事件の詳細が明らかになる中で、メディアによって繰り返し強調される情報が何であったのかを見ることで、アメリカ社会の銃乱射事件に関する議論が見えてくる。

犯人は女性、武器はハンドガン

 事件直後多くのメディア強調して報じたのは犯人が女性であったこと、そして武器が合法に入手されたハンドガンであったことだった。アメリカでの銃乱射事件の犯人は90%以上が男性だ。また大量の死傷者を出して人々の記憶に強く残る事件では、火力が強く連射が可能なアサルトライフルが使われている。だから銃規制議論ではアサルトライフルが常に規制の対象として持ち上がり、全米ライフル協会と政治の結びつきが批判されるわけだ。

 銃乱射事件、と聞いて「男の犯人によるアサルトライフル乱射」をすぐに想像してしまうのがアメリカ社会の現実だが、今回の事件はその予測を裏切っていた。次に人々が注目するのは犯人の人種、宗教、そしてモチベーションだ。

イラン人、非イスラム教徒、YouTubeへの恨み

 犯人の女はイランからの移民、と聞いて「またイスラム教徒によるテロだ」と決めつける反応が非常に多く出されている。しかし現在の報道では、犯人はイランでは迫害の対象となっているバハーイー教徒を自認していたとのことだ。イスラム教徒ではない。それでもTwitterやFacebookで彼女の名前と「muslim」で検索すると彼女をイスラム教徒のテロリストと決めつけた書き込みが大量に見つかる。またカリフォルニア州の共和党議員Dana Rohrabacherは証拠無しに犯人は「不法移民である可能性がある」と発言したが、これも誤りだ。

 銃規制に対する反論として、銃が問題なのではなく問題は”犯罪者である不法移民やイスラム教徒のテロリストたち”であるといった意見が右派政治家たちから頻繁に表明される。今回もそれが繰り返されることを予想した人は多かっただろう。しかし犯人はイスラム教徒でもなく不法移民でもない、信仰を理由にした過激派テロでもない。彼女のモチベーションは自身のYouTubeチャンネルにおける広告収入が止められたことに対する怒りだったのだ。

 銃乱射事件が起きる度に、政治的なアジェンダによって一部が強調されるものだが、今回の事件は非典型的な要素ばかりが並んでいる。

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