>  >  >  >  > 「まるで洋楽」というレベルを超えた、Perfumeと中田ヤスタカの挑戦
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 Perfumeの2年ぶりとなるオリジナルアルバム『LEVEL3』は、EDMへと大胆に振り切った方向性、つまり「洋楽のような」音作りで話題になっている。こうした楽曲は日本ではマニアックで一般に受け入れられにくいものだとされており、Perfumeの楽曲をプロデュースし続けている中田ヤスタカが、いい意味で「思い切った」アルバムを作ってのけた、という意見が見られるようだ。そしてそんなアルバムが初週16.5万枚を超すヒットを記録したことにも驚きの声がある。

 しかし、この「まるで洋楽」みたいな紋切り型のホメ言葉というのは、実に退屈である。なぜなら、そうした文句というのは邦楽が国際的に異端であるという前提に立って語られるものである。そして土着の芸能界システムと渾然一体となった日本のヒットチャートに、「まるで洋楽」のような際だった音楽を送り込むことは挑戦的であり、啓蒙的ですらあるというわけだ。しかしつまり、邦楽が常に洋楽に対して遅れていると信じることから、この言葉は生まれている。

 もちろん、日本のヒットチャートに「まるで洋楽」みたいな音楽がチャートインする意味は存在するだろう。だが、ネットの普及と全世界的なCD市場の衰退によって、ヒットチャートというものの価値そのものが変わってしまっている今、かつてと同じ考え方で「日本の大衆が聴いている音楽シーンにPerfumeと中田ヤスタカが切り込んでいっている」というような構図だけに頼って語ろうとすることにはどれだけ意味があるだろうか。たとえばこれが、演歌や歌謡曲がバリバリ売れていた1970年代の出来事だったら驚くに値するかもしれないが、今日において「まるで洋楽」だからこのアルバムはすごいのだと言うのは、むしろこのアルバムの価値を低く見積もっていると言わざるを得ない。どんなミュージシャンの作品にも言えることだが、そうした紋切り型はもうやめにしたいものだ。

 これに付随して言えるのは「アイドルなのに曲がいい」みたいな言い方である。これもまた、アイドルの楽曲は質が低いという前提の元で語られる言葉だと言っていいだろう。アイドルファン、特に80年代などの古いアイドルのファンだった中高年層にすら、うっかりとこうした前提に立って話してしまう者がいる。しかし、むろんそうした「価値がないけれどもあえて聴く」というような諧謔的な態度は今日のアイドルとさほど親和性が高いとは言えないだろう。

 しかし「アイドルなのに曲がいい」という言い方には、昨今にはもう一つ重要な論点が隠されている。それは今日のアイドルシーンは「人」ばかりを重んじるものだから、音楽そのものは軽視されている、という考え方だ。いま日本のCD市場が世界的にもまれなレベルで売り上げを回復させているのはアイドルグループがコアなファン層に向けてAKB48の「総選挙」に代表される特典付き販売を大々的に展開した結果と言って差し支えないはずだ。つまりファンはライブを見たり握手会に参加したり、あるいは総選挙に投票したいがためにCDを買うわけで、アイドル側はその気持ちを利用してCDを大量に捌いている。売り上げとは裏腹にアイドルは真面目に音楽をやっていないなどと揶揄される所以がここにある。

 ところがそのさらなる結果として、ここ最近のアイドル楽曲はむしろ音楽的に多様化が進み、質が向上し続けていると言わざるを得ない。その傾向は今年に入ってからますます顕著になってきた。要するにアイドルシーンが限界まで「曲なんて何でも構わない」という音楽軽視の傾向を押し進めた結果、「何でも構わないのならいい曲を作ろう」という動きがどんどん広まっている。シーンは活発で表現は広がりを見せ、またライブの盛況やCDの売り上げ増によって予算も増えており、良質な音楽を志すスタッフが自由にものづくりできる状況が整っているのだ。ゆえにアイドルシーンの楽曲は質的向上の良きサイクルに入っていると見ることができるのではないだろうか。ちょうどかつてのマドンナが一作ごとに超最先端の音楽性を手当たり次第に採り入れながらアルバムを作りまくっていたように、いま日本のアイドルは先鋭的な音楽をリスナーに届けるメディアとして機能している。

 Perfumeがいまこういう際だった音楽性を持つアルバムを出すことができるのは、こういう市場動向があってこそのことだと思われる。これは「Perfumeがアイドルかどうか」とか「Perfumeは握手会商法なんてやってないからすごい」などという浅薄な語りを超えている。つまり、中田ヤスタカはおそらく、上記したようなアイドルシーンがもたらした日本のCD市場の盛況を俯瞰した上で、今ならこのアルバムを出すことが可能であると判断したに違いない。彼はもともとグローバルな音楽性を志しているはずだが、しかし今はPerfumeというドメスティックな音楽業界に近い位置にいるグループですら、そこまでのチューニングを感じさせないアルバムを提示することができる。それは冒頭に挙げたような挑発的な印象を与えることにもつながるだろうし、また『LEVEL3』というタイトルからも漂うようなグループとしての成長も感じさせることができる。おそらく彼はそれを肌で感じ取った。

 もちろん、「洋楽のような」音楽なのだから、海外の市場にも魅力を感じさせることができるかもしれない。むしろPerfumeが目指すのはそこではなかっただろうか。アイドルブームが生み出した日本のCD市場の時ならぬ活況が持つあらゆる側面を手がかりにして、Perfumeはもはや当たり前のように「洋楽のような」アルバムを作り、当たり前のように国際市場に訴えかけようとしているように感じる。その試みがうまくいくかはわからない。だが少なくとも、状況を活かしたこの手腕は鮮やかなものだったし、だからこそ日本のヒットチャートに「洋楽のような」アルバムを食い込ませたというだけで溜飲を下げるようなポテンシャルの低い作品ではないはずだ。我々リスナーがその試みを感じることができれば、Perfumeに限らず邦楽全体が、さらに一歩、世界に対して踏み出していける。

■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』がある。Twitter

LEVEL3

前作「JPN」より約2年年ぶり、ユニバーサルミュージック移籍後初のオリジナルアルバム!! 日本のみならずアジア、ヨーロッパと、世界を席巻しつづけるPerfumeが満を持して放つ最新鋭サウンド!!! イメージキャラクターで自らが出演するエーザイ『チョコラBBスパークリング』新TV‐CMソングにも抜擢されている新曲「Party Maker」も収録。

LEVEL3

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