『初恋の悪魔』坂元裕二の会話劇はなぜ4人組なのか? ドラマの推進力を生む自宅捜査会議

『初恋の悪魔』坂元裕二脚本はなぜ4人組?

 『初恋の悪魔』(日本テレビ系)で仲野太賀、林遣都、松岡茉優、柄本佑が演じる「自宅捜査会議」は、クスリと笑える小ネタとクセの強いキャラクターの魅力が引き出された本作の白眉である。仲野演じる馬淵悠日は総務課勤務のため直接捜査にタッチしないが、停職処分中の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)や会計課の小鳥琉夏(柄本佑)、生活安全課で万引きを取り締まる摘木星砂(松岡茉優)と、主に鹿浜の自宅洋館で推理を重ねる。4人の会話を通して隠れていた意外な真実が導かれる様子は、謎解きのスリルに満ちている。

 本作や『カルテット』(TBS系)、『最高の離婚』(フジテレビ系)をはじめ、坂元裕二が脚本を手がけた作品では、4人組の会話劇がドラマの主軸を担うことが多い。主人公とその仲間、あるいは2組のカップルなどその成り立ちはさまざまだが、彼らが交わす言葉のやり取りや人間模様が時に波乱を生み、またロマンチックな軌跡を描くことで作品世界が紡がれていく。そこには特有のリズムがあるように思われる。なぜ4人なのか? 2人でも3人でもなく、メインキャストを4人で構成することにどんな意味があるのだろうか。その答えを知るためには、坂元裕二という作家について知る必要がある。

 第1回フジテレビ ヤングシナリオ大賞の受賞者である坂元の名前が広く知られるきっかけになったのは『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)だった。トレンディドラマの代名詞となった同作は4人組会話劇の原型といえる作品だ。柴門ふみの原作に手を加え、リカ(鈴木保奈美)の視点から構成されたドラマでは、リカとさとみ(有森也実)の間で揺れる完治(織田裕二)の葛藤や完治と三上(江口洋介)、さとみの三角関係がクローズアップされた。リカと完治、三上とさとみの2組のカップルの関係は固定的ではなく、登場人物の内面とともに揺れ動く。4人が繰り広げる言葉と感情の往来は想像以上にダイナミックで、今見てもまったく色あせない。

 関係性のバリエーションという点で4人組は便利だ。2人だと会話のキャッチボールはできるが物語に広がりが生まれにくく、3人では安定した関係ができる反面、絆が濃くなりすぎる。この点、メインキャラを4人にすることは2+2または3+1の両方を兼ねるメリットがある。連続ドラマなら物語前半でそれぞれの背景を掘り下げ、しかるのちに2対2や3対1のエピソードを配する構想を立てることも可能だ。

 『最高の離婚』を例にとると、濱崎光生(永山瑛太)と結夏(尾野真千子)、上原灯里(真木よう子)と諒(綾野剛)という2組の夫婦が登場する。光生と結夏の出会いに始まり、光生と結夏の不和、灯里と諒の間の秘密、結夏と灯里の間で悩む光生など、関係性のバリエーションが豊富に示される。ここには光生と諒、結夏と灯里の同性間の連帯も含まれる。長台詞を交えた会話の応酬が変幻自在な関係性と予測のつかない展開をもたらしていた。

 先に構成面について触れたが、坂元裕二の作品ではドラマの推進力を会話が担っている。坂元自身が「ストーリーのためのセリフを言わせるのもイヤだし」(※1)と述べるように、説明セリフは最小限で、人物の置かれた状況は間接的に動作や場面転換、会話を通して示される。そこには、登場人物の関係やドラマの重要な伏線も含まれる。

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