『17才の帝国』に脚本家・吉田玲子が込めた思いとは? 再放送を機に制作陣に手応えを聞く

『17才の帝国』脚本・吉田玲子インタビュー

 6月24日、25日の深夜に、NHKドラマ『17才の帝国』が一挙再放送される。

 6月4日に最終回を迎えた『17才の帝国』は、政治AI・ソロンによって実験都市ウーアの総理大臣に選ばれた17才の真木亜蘭(神尾楓珠)が主人公のSF青春ドラマだ。

 脚本を担当したのは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『平家物語』といったアニメで知られる吉田玲子。『17才の帝国』は大胆な構成となっており、全5話の中で、AIを用いた近未来SFと政治シミュレーションとサスペンスと青春ドラマが交差し、最終話では誰もが驚く意外な場所に物語が着地する。本作の一番の功績は吉田をオリジナルドラマの脚本に起用したことだろう。

 このたび、『17才の帝国』の一挙再放送を機に、脚本を担当した吉田玲子へのインタビューを実施。プロデューサーの佐野亜裕美とチーフ演出の西村武五郎にも同席してもらい、作品が生まれた経緯や、作品を作り終えた現在の心境、そしてそれぞれにとっての“17才”について、語ってもらった。(成馬零一)

「17才の頃の自分と向き合って何を思いますか?」

――映像化された『17才の帝国』を観て、どう思われましたか?

吉田玲子(以下、吉田):最初に感じたのは「青い」ってことですね。中身も青い。何もかも青いなと思いました。

――『17才の帝国』というタイトルと、ログライン、真木亜蘭というキャラクターはすでに頭の中にあったそうですが、どういった経緯で思いつかれたのですか?

吉田:これから高齢化社会になって若い人たちは大変だなと思ったのがきっかけです。高齢者が多くて若者が少ないピラミッド構造に人口が変化していく中で、これが逆になったらどうなるのだろうかとイメージし、まずはタイトルを思いつきました。

――今回のドラマ化は、最初のアイデアがそのまま映像化されたのでしょうか?

吉田:当初は17才が大人をばんばん切っていくディストピアものでしたが、今やるとしたら「もう少し希望が残るもの」の方がいいと思って現在の形に変わりました。同時に「AIを用いる」という提案を受けたことで、17才が本当に政治に関わることができると思い、リアル寄りの方向へと変わっていきました。

――全5話とは思えない物語の密度でしたよね。先の展開がまったく予想できなくて、観ている時は毎週どうなるのかとドキドキしながら楽しんでいました。結末は始めから決めていたのですか?

吉田:最後に真木くんが総理を辞めることになるけど、彼が抱いていた志みたいなものは、みんなの中にちょっとずつ残っていくというラストにしたいなと思っていました。

――最終話まで観終えて、茶川サチ(山田杏奈)の存在が想像以上に大きかったことに驚きました。

吉田:真木くんは一貫していて、変わらないのですが、サチは真木くんへの憧れから“闇落ち”していくという感情の流れがあって、17才の光と影を真木くんとサチで表せたらと考えていました。

――真木が亡くなってしまった雪ちゃんのデータをベースに作ったAIであるスノウ(山田杏奈が1人2役)が、大人たちに「また殺される」と言って暴走していく最終話の展開がとてもショックでした。彼女は消えてしまったのですか?

吉田:はっきりとは書いてはいないのですが、真木くんはもうスノウに触れることはできないし、決別したのだと、私は思っています。

――そこは曖昧にしているという感じですか?

吉田:そうですね。17才の時であれ子どもの時であれ、自分が抱いた感情や過去に行ったことをずっと抱えて生きていかないといけないと真木くんたちは思っている。だから「忘れ去ること」も「消し去ること」もできない。スノウはそういう想いの象徴ですね。

――ドラマを観ている間、政治のことやAIの可能性など様々なことを考えたのですが、最終的に「あなたは17才の時、どうでしたか?」と問いかけられたように感じました。物語を追いかけていたら、最後に「17才の時の自分」の姿を見つけてしまったというか。大人の方が、より突きつけられるものが、あるのかもしれないですね。

吉田:政治の世界を題材にはしていますが、いろいろな職業の方に、「17才の頃の自分と向き合って何を思いますか?」ということを考えていただけたらと思って書いていたので、そのように受け止めていただいて嬉しいです(笑)。

――ドラマを観終わって、作品を作った方たちの「17才」についてお聞きしたいと思いました。吉田さんは17才の時に、どのようなことを考えていましたか?

吉田:私はハヤカワSF全集と司馬遼太郎全集が愛読書の、ちょっとふわふわした女の子でした。

一同:それはふわふわしてないですよ(笑)。

吉田:ブラスバンド部だったので、ずっと音楽室で過ごしていました。何になりたいとも、これから何をするとも思わず。

――将来、今のような物語を書く仕事を生業にしようとは思っていましたか?

吉田:全然思っていなかったです。ただ、広島の呉という片田舎に住んでいたので「広い世界に行きたいな」とは思っていました。

――スノウみたいですね。

吉田:そうですね。箱の中から抜け出したいという願望を持って生きていました。

――プロデューサーの佐野さんは17才の時はどういうふうに過ごしていましたか?

佐野亜裕美(以下、佐野):私は闇落ちしていましたね。引きこもっていたので、学校にも行かず、ずっと映画やドラマを観ていました。「全員死ねばいい」みたいなことを思っていたので、そこから抜け出せてよかったと思います。だからサチを見ていると、いたたまれなくて。

――サチは辛い役割を背負わされていましたよね。チーフ演出の西村さんはどのような17才でしたか?

西村武五郎(以下、西村):17才は、はじめて女の子に告白しました。

一同:青春だ。

――キラキラと輝いていた感じですか?

西村:いえいえ、はじめてですから。自分の中では新しい世界に飛び込む感じでしたね。

――その時から映像の世界に行こうと考えていましたか?

西村:西村:当時はミュージシャンを目指していました。曲書いて文化祭のテーマソングに応募したりもしました。僕たちのは採用されませんでしたが。応募していた人たちには「いきものがかり」のメンバーもいました。

――真木君もサチも政治に対する意識が高い高校生ですが、吉田さんは17才の頃は政治についてどうお考えでしたか?

吉田:私はフィクションの中でしか考えたことがなかったですね。自分が社会に参加するという意識すらなかった。ハヤカワSF文庫の世界にあるような、未来は進んだけどそんなに明るくなくて、いろんな支配が及んでくるというディストピアの物語を読んで、政治のことを意識したくらいですね。

――政治を題材にした前向きな作品でありながら、最後に思春期の少年少女が抱えている暗い感情を掬い上げてくれたことが、どこか痛快だったんですよね。サチやスノウのような感情が17才の時に自分の中にも渦巻いていたことを思い出しました。

西村:『17才の帝国』スタッフブログで佐野さんも書かれていましたが、佐世保で食事をしている時に吉田さんが「自分が作品をご一緒したクリエイターは、みな14才か17才を飼っている」と話されていたことが印象的で。佐野さんと僕は同年代で、中学生の時に神戸で酒鬼薔薇事件があり、高校生の時に佐賀のバスジャック事件という、同年齢の少年が起こした事件があったんですよ。あの頃、少年犯罪が立て続けに起こっていたので、14才、17才の事は、ずっと心の中にあったんですよね。僕らの年代って大学受験の時に心理学部専攻を希望する人が多かったのですが、17才の時は政治に対する関心よりは「人の心を知りたい」「どうしてああいうことが起こるのかを知りたい」と考えていたように思います。

――雑賀すぐり(河合優実)が「17才の時に学校を燃やそうと思った」と言った後、「あの頃の私は全てに怒ってばかりだった」「自分の怒りで窒息しそうだった」「思い出したくもない」「だけど、17才の私はずっとそこにいる」と言いますが、あの気持ちもすごくわかるんですよね。僕は西村さんと佐野さんより少し上の世代ですが、90年代末から00年代初頭に起きていた少年犯罪のイメージが『17才の帝国』とどこかでつながっているのは、何となく理解できます。

西村:最終話で雪ちゃんの話になり「ここまで行くのか」という展開になるのですが、彼女の最後の「引っかき傷」みたいなものを、どれくらい作品に残せるかという気持ちが最終回にはありましたね。

――だから「スノウはどうなったのかな?」と、ついつい考えてしまうんですよね。スノウが登場する毎話のEDタイトルも印象的でした。あのシーンには吉田さんは関わっているのですか?

吉田:EDに関しては全然関与していなかったので、塩塚モエカさんが歌っているのを観て驚きました。実は私の関わった作品で塩塚さんが主題歌を歌うのは3作目なんですよ。

声よ - 坂東祐大 feat. 塩塚モエカ(羊文学)

――吉田さんが脚本を書かれた映画『岬のマヨイガ』とテレビアニメ『平家物語』の主題歌は塩塚さんがボーカルのバンド・羊文学が担当されていますね。

佐野:音楽の坂東祐大さんから塩塚さんの名前が挙がって、ここでまた塩塚さんだと、吉田さんとご縁がありすぎるかなと思いつつも「それはそれで」と思って、お願いしました。

――スノウが暴走した時に映像が流れますが、黒板に書かれていたのは夏目漱石の『こころ』ですね。

西村:あのシーンも脚本にはなくて、僕の趣味ですね。第2話でサチが授業中にスマホを使っていて先生に怒られるシーンがあるのですが、実はその時の授業で扱っていたのが『こころ』だったんですよ。

――そうだったんですか! すみません。気づきませんでした。

西村:誰も気づいてないと思います(笑)。理想と現実というテーマを扱っているので『こころ』を使おうと思いました。

――新しい試みが多い作品だったので、役者の方たちも苦労されたと思うのですが、現場ではいかがでしたか?

西村:撮影では、実際にはソロンが存在しない中で想像しながら演技をしていただいたのでとても大変だったと思います。(山田)杏奈ちゃんに至っては、スノウの芝居を撮った後で、スノウがモニターに映っているという設定でタイミングをあわせて一人で演技をしていたわけですし。

――それは大変そうですね。

西村:劇中で描かれていないことも多かったので、みなさんご自身の役柄の背景を想像力で埋めて演じていただきました。特に望月歩さんと河合優実さんはそれぞれの役の背景を、全員に話すことで、背景を全て埋めようとしていましたね。雑賀すぐりが「学校を燃やそうと思った」と言う場面は、そこに至るまでの過程が描かれない状態での台詞だったのでとても難しかったと思うのですが、河合さんはご自身で背景を埋められていて、本当に凄かったと思います。

――役者の演技をご覧になって、吉田さんはどう思われましたか?

吉田:表情の作り方を観て、こういう風に表現するのかと思うことが多かったですね。特に平清志を演じた星野源さんは、真木くんの発言や行動をどう受け止めているのかを、細かい表情や目線で表現してくださっていて、感動しました。

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