Netflix史上最大の人気作に? 『イカゲーム』世界的大ヒット現象の理由を読み解く

『イカゲーム』世界的大ヒット現象を読み解く

 9月17日から世界配信が始まったNetflixオリジナル韓国ドラマシリーズ『イカゲーム』が、世界中で爆発的人気となっている。配信データサイトFlixPatrolの9月28日付のチャートによると、観測を行っている124カ国中83カ国でテレビシリーズ部門TOP10にランクインし、うち78カ国では1位を記録している(参考:https://flixpatrol.com/title/squid-game/)。9月27日に行われたメディア業界のイベントで、Netflixのテッド・サランドス共同CEO兼コンテンツ最高責任者は、『イカゲーム』がNetflix史上最も人気のあるコンテンツになる可能性を示唆し、「世界的な人気は予想外だった」と述べている(参考:https://variety.com/2021/digital/news/netflix-most-popular-tv-shows-movies-1235075301/)。

 世界における韓国コンテンツ人気は上昇の一途を辿っているが、アジアの作品が世界ランキング1位となり、アメリカでも1週間以上1位を保持するのは極めて異例。過去には、ソン・ジュンギ主演の映画『スペース・スウィーパーズ』(2021年)が2月5日の配信開始から3日間映画部門の世界ランキング第1位を記録、日本作品では『るろうに剣心 最終章 The Final』(2021年)が6月の配信開始時に最高で世界ランキング4位を記録している。

 2020年2月に『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督、2019年)が外国語映画として初めてアカデミー賞作品賞を受賞した理由、そしてこの『イカゲーム』大ヒットの理由は、異文化コミュニケーションのセオリーに解明の鍵があるようだ。

 Variety誌の監督インタビュー記事(参考:https://variety.com/2021/global/asia/squid-game-director-hwang-dong-hyuk-korean-series-global-success-1235073355/)によると、ファン・ドンヒョク監督(『トガニ 幼き瞳の告発』『怪しい彼女』)は、2008年から今作を長編映画の企画として開発していたという。当時の企画メモには、アメリカの『ハンガ・ゲーム』(2012年)、日本の『バトル・ロワイアル』(2000年)、三池崇史監督の『神様の言うとおり』(2014年)とあり、漫画版『バトル・ロワイアル』、甲斐谷忍の漫画『LIAR GAME』の影響も認めている。自身の映画にアイデアを持ち込む際に、ゲームを子供の遊びに置き換え、どこにでもいる人物を主人公にすることで、残虐なサバイバルゲームの主題である「資本主義社会の寓話と熾烈な競争社会」を浮かび上がらせた。その理由を「彼らが参加するゲームは非常にシンプルでわかりやすい。そのため視聴者は、ルールの解釈に気を取られることなく、登場人物の葛藤に集中することができる」と解説する。

 賞金456億ウォン(約42億円)を賭け、パステルカラーで作られた夢の国のような場所で、クラシック音楽が流れるなか子供の遊びで死闘を繰り広げる訳ありの大人たち。「だるまさんが転んだ」は、韓国では「ムクゲの花が咲きました」、英語では「レッド・ライト、グリーン・ライト」と呼ばれ、世界各国に似たような遊びがある。第1話は、韓国ローカルゲームの「イカゲーム」の説明を軽くしておきながら、クライマックスでは視覚で簡単に理解できる「だるまさんが転んだ」で生死をかけたゲームを行う。シンプルかつ残忍な展開で、物語の設定世界に簡単に入り込むことができる。

 コンセプトをシンプルに研ぎ澄ますことに大きく寄与しているのが、テーマを深めるために熟考されたプロダクションデザイン。

[Behind the Scenes] Let the games begin | Squid Game Featurette 【日本語字幕 CC】

 プロダクションデザイナーは「『イカゲーム』に隠された意図を視聴者自身に考えてもらう雰囲気を目指し」セットデザインを設計したと言う。書き割りの風景にそびえ立ち「だるまさんが転んだ」を司る奇妙な人形、まるでウェス・アンダーソンの映画のようなパステルカラーのセット、人間の欺瞞や業が浮き彫りになるビー玉遊びの舞台となるノスタルジックな街並み。どれもが強いビジュアルコンセプトを持ち、視聴者がドラマの世界に没入するのに一役どころか、重要な役割を担う。

 緑ジャージの参加者とピンクのスーツの運営側、そして仮面を被ったフロントマン、ポップなロゴやスチール写真などの画の強さは、いまやUI(ユーザー・インターフェース)がメディア化しているNetflixらしい仕掛けだ。アメリカ版のUIにも『イカゲーム』が現れるが、一見では韓国ドラマだとわからない。予告編も、ストーリーではなく画を見せる作りになっている。覚えやすいタイトルと人形が微笑み緑ジャージの人々が地面に倒れるトップ画面は、「何かおもしろい作品はないか」と常に探している視聴者が思わずクリックするだけの強い引きがある。類似性を感じさせる、強盗団が赤いトラックスーツを着た『ペーパー・ハウス』の最新シーズンが9月3日に配信になったばかりなのも計算の上だろう。

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