全方位にエンタメ極める韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』 その革新性と世界的大ヒットの理由を考察

『ヴィンチェンツォ』の革新性とヒットの理由

 このところNetflixジャパンのTOP10リストで1位にランキングされていた韓国ドラマ『ヴィンチェンツォ』が最終回を迎えた。2月に韓国での放送と同時に配信開始された当初は「キャストが地味」「ジャンルが不明」といった不安要素もあったが、回を追うごとにパワーアップし、韓国内視聴率も最高18%を記録。ケーブルチャンネルtvNの歴代6位の視聴率で有終の美を飾った。過去数週間の配信日にはストリーミング・データサイトFlixpatrolのNetflixシリーズ世界ランキングで4位を記録している。

 今作は、韓国系イタリア人で、マフィアのコンシリエーレを務めるヴィンチェンツォ・カサノ(ソン・ジュンギ)が母国に戻り、世に蔓延る巨悪と闘う物語。予告編ではコンシリエーレと言えばの『ゴッドファーザー』と、『オールド・ボーイ』(パク・チャヌク監督)に代表される韓国ノワール映画の雰囲気を漂わせていたが、1話の途中から、どうやら様子が違うことに気づく。銃を構えたかと思うと、いきなり小ネタでボケ倒され、アクション、サスペンス、友情、団結、ちょっとした恋愛要素が速いテンポで切り替わり、ドラマの軸である復讐劇と法廷劇をしっかり見せる。もちろん韓国ドラマ定番設定の出生の秘密、義兄弟、財閥と司法・政権の癒着も絡めながら。最近の韓国映像コンテンツは1つのジャンルに捉われずに複数のジャンルにまたがる作品がヒットの秘訣と言われていて、『パラサイト 半地下の家族』はその代表作品と言える。『ヴィンチェンツォ』は、どのジャンルも抜かりなく全方向に突き抜けたエンターテインメントを追求しているから、再生ボタンを押すと20話を全速力でビンジ・ウォッチングする羽目になる。特に、脚本を練り直すために放送を1週休止した後の17話以降は、一瞬にして冷徹なマフィアの顔に豹変するソン・ジュンギをはじめとした各俳優の演技、ジャンルのミックス具合と音楽、緩急のつけ方が神がかっていた。最終話は得意のジェットコースター級の緩急を控えめにノワールに徹し、数々の伏線回収と、視聴者に解釈の余地を残すオープン・エンディングで締めくくり骨太なテーマを浮かび上がらせた。

演出中のキム・ヒウォン監督

 『ヴィンチェンツォ』には、イタリア仕込みのマフィアが韓国の悪党たちを打ちのめす、“毒を以て毒を制する”というテーマが全編に敷かれている。プロデュースとメインの演出は、『王になった男』『カネの花~愛を閉ざした男~』の女性監督キム・ヒウォン。画角にこだわった美しい映像とスタイリッシュな音楽、あえて余韻を排除しスピーディに進む演出が小気味良い。5月13日に行われる百想芸術大賞では、ソン・ジュンギが主演男優賞、キム・ヒウォン監督が監督賞にノミネートされている。脚本は『キム課長とソ理事』『神のクイズ』などのパク・ジェボムで、マフィアVS悪党の仁義なき戦いの骨太な部分と唐突に小ネタを差し込んでくる予想外の展開に舌を巻く。その遊び心やサービス精神はキャスティングやジョークにも現れていて、『愛の不時着』『梨泰院クラス』『パラサイト 半地下の家族』『椿の花咲く頃』『刑務所のルールブック』を観ているだけで笑えるシーンがある。

韓ドラ史に残る異色のヴィラン、ミョンヒ(キム・ヨジン)

 ヴィンチェンツォ役のソン・ジュンギは日本でも知名度の高い人気俳優だが、共演のチョン・ヨビン(ホン・チャヨン役)と2PMのオク・テギョン(チャン・ジュヌ役)以外の出演者は、韓国ドラマの名バイプレイヤーたち。ドラマでよく観る顔だけど名前まではちょっと……といった存在だった彼らの熟練の演技が、エピソードを重ねるごとにドラマの高揚感を高める大きな役割を果たしている。特に、コインランドリーでズンバを踊る悪徳弁護士ミョンヒ(キム・ヨジン)のキャラクターは、韓国ドラマ史上に残る奇妙なヴィランだ。ヴィンチェンツォとチャヨンが守ろうとする商業ビル・クムガプラザのテナントたちは、『愛の不時着』での北朝鮮の第5中隊と社宅村の奥様方の友情と結束のごとく、ドラマに大きな一体感をもたらす。放送開始当初の不安要素が、回を重ねるごとにプラスに作用していったのは製作陣の思惑通りだったのかもしれない。

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