今泉力哉監督と考える、日本映画界の現状 作家にとって理想の環境はいかにして作られる?

今泉力哉監督と考える、日本映画の今

 新型コロナウイルスによる相次ぐ公開延期、緊急事態宣言発令による映画館の一時閉鎖など未曾有の事態となった映画界。その中でも、もっとも気を吐いている映画監督の一人が今泉力哉だ。

 2019年に『愛がなんだ』が大きなヒットを記録して以降、『アイネクライネナハトムジーク』『mellow』『his』と監督作が相次いで公開。今年も、2月には『あの頃。』、コロナ禍の影響で公開が延期していた『街の上で』の公開が4月に控えているなど高い製作ペースを維持し続けている。

 CM、ドラマ脚本などその活動のフィールドを広げながらも、常に自身のインディペンデント作家としての出自を忘れることなく作品を生み出し続ける映画監督・今泉力哉は、日本の映画業界とどのように向き合っているのだろうか。自身のキャリアの特異性から日本映画を取り巻く資本の問題までたっぷりと語ってもらった。(編集部)

「『めっちゃお金をかけたい』とか思わない」

ーーリアルサウンド映画部では、2019年、2020年と、年の終わりに三宅唱監督に1年を振り返ってもらうインタビューをおこなっているんですが(参照:“映画館でかけるべき映画”を作り手たちは考えないといけないーー三宅唱が2010年代を振り返る三宅唱が語る、2020年に映画監督として考えていたこと 「映画ならではの力を探りたい」)、2020年の年末(取材日は2020年12月28日)は今泉監督にも是非お話を伺いたいと思ってオファーをさせていただきました。

今泉力哉(以下、今泉):三宅さんの話からすると、CO2っていう大阪でやってる自主映画の映画祭があって、2009年くらいに同じコンペティションの最終選考を競ったりしていたこともあって、その頃から面識があるんですよ。その後は、お会いするのは数年に一度くらいですけど、『きみの鳥はうたえる』を観た時は、興奮して映画館から家に着くまでずっとショートメールを送ったりしてました(笑)。

ーー今泉監督も三宅監督もまだ30代ですが、自主映画出身というだけでなく、それよりも上の世代の監督たちとは異なるバックグラウンドから出てきたという印象があって、その後の映画監督としてのキャリアの積み方もそれぞれ前例がいないなって。

今泉:自分に関してしか言えませんが、実際、日本の映画監督の中で相当特殊なポジションにいるという自覚はあります。一応、映画学校でフィルムもギリギリやりましたけど、世に出たばかりの頃は「デジタル世代の悪しきなんとか」みたいなことをめちゃくちゃ言われましたしね。「ゆるく」「かるく」「覚悟なく」映画を撮ってる代名詞みたいな。そもそも扱ってる題材も恋愛ものだったり、ちょっとコメディっぽいものだったりで、社会的なことにはまったく触れずに作品を撮っていたし、映画をものすごくたくさん観てきたわけじゃないので。

ーーとは言っても、たくさん観てると思いますよ。

今泉:自分はニューシネマワークショップという学校の出身で、当時は同じような学校としてENBUゼミナールとか映画美学校とか、大学になる前の日本映画学校があって。まだ東京藝大大学院の映像研究科とかもなかった。その中でも美学校は立教からの流れで、講師も生徒もみんなシネフィルというか、とんでもなく映画を観ていて(という偏見が俺の中にあっただけかもですが)。自分が短編でグランプリとかを獲ってちょっと知られるようになった時は、同世代の美学校出身の人たちから全否定されてるような感覚があって(笑)。まあ被害妄想かもですけど、でも確実にそんな視線は感じてました。

ーー『退屈な日々にさようならを』では、まさにそんな作り手と観客がぐるぐる回ってるだけの自主映画の狭い世界を揶揄してましたよね。

今泉:あれは自分で自分を刺しにいったんです。『退屈〜』自体がワークショップから生まれた映画だったので、そういう映画になってしまったらこの映画は終わりだ、っていう。自主映画でもずっと続けていたら、500人とか1000人くらいの固定客をがんばって集めるところまではいけると思うんですけど、それってただの身内の褒め合いで終わるんで。

今泉力哉

ーーただ、今泉監督の面白いところは、これまでの作品の質と量とその成果を考えると、もうどこにでも行けそうなところまで来てると思うんですけど、わかりやすいキャリアアップを目指してないように見えるところで。つまり、日本のメジャーの映画会社と組むことだったり、海外の映画賞に強いプロデューサーと組むことだったり、そういう方向には行かないですよね。

今泉:正直そういうことにはまったく興味がないんですよね。きっと一番ずるいところにいるんですよ。「やりたいようにやってるよな、お前は」って言われるような。そういう大変そうなことは避けていて、かといって、小さすぎる作品ってわけでもない。そこから、『愛がなんだ』のように、ありがたいことに広がっていく作品も生まれましたけど、その後も同じような規模の作品を撮り続けているっていう。以前、何かの記事でホン・サンス監督が「世界中に自分の映画を観る人はのべ5万人くらいしかいないから、5000万円以上の製作費はかけない」って言っていて。そういう感覚ってすごく大事な気がしていますね。「めっちゃお金をかけたい」とか思わないんですよね。

ーーでも、大きな作品の話もきたりしますよね?

今泉:最近も一つ、原作ものでありましたね。もしやってたら、絶対に製作費も監督ギャラも過去最大という。でも、「これは俺じゃない人が撮った方が面白くなるんじゃないか」って思って散々迷った末にお断りしました。結局、映画が好きなところから始まってるんで、自分のエゴよりもそっちが勝っちゃうんですよね。自分が一番うまくできると信じられない題材をやる必要は、少なくとも今はないかなって。世に出た時に面白い映画になっていたほうが原作者も原作ファンも幸せですから。

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