『アシガール』は奇跡の1本だった 黒島結菜×伊藤健太郎のかけがえのない瞬間がここに

再放送中『アシガール』は奇跡の1本だった

 再放送中の『アシガール』(NHK総合)は3年前に放送していたときから「胸キュン」ドラマとしてアピールされていたが、いま観てもその「キュン」は色褪せない。いやむしろ増幅して見える。なぜだろう。

 陸上部の花形で、足がものすごく早い女子高生・速川唯(黒島結菜)が、弟・尊(下田翔大)の作ったタイムマシンによって平成時代から戦国時代にタイムスリップ。そこで出会った凛々しい若君・羽木九八郎忠清(健太郎/現・伊藤健太郎)に恋をして、戦に身を投じる彼を救うため、“足軽”唯之助として戦場を疾走する。歴史の教科書によれば、羽木家は戦に負けて若君も生命を落とすことになっている。未来から来た唯が頑張って若君を救ったら歴史が変わってしまう。古今東西、タイムスリップものは歴史を変えてはならないことになっているのだが、唯と若君はどうなる?というドキドキラブストーリー。

 恋するふたりの恋に高いハードルがあり、それを乗り越えるまでに紆余曲折ある物語は、『ロミオとジュリエット』をはじめとして、恋愛もののテッパンだが、だからといってなんでもかんでもヒットするわけではない。『アシガール』は現代と戦国時代の行き来というスケールの大きさがテレビドラマのラブストーリーにしては目新しかったのと、主人公の唯の健気さ、混じりっけないピュアさが見ていて気持ち良く、そんな彼女が一途になる若君のかっこよさにも強い説得力があった。

 伊藤健太郎の清冽な立ち姿やキリッとした目元や口元から弓や剣や馬を扱う所作まで、まるで武者絵のよう。そんな彼に馬の後ろに乗せてもらってキュンとなる唯の気持ちがよ~くわかる。甘い王子様もドSな王子様も素敵だけれど、若君は甘すぎず辛すぎず、レモンを絞ったソーダのような王子様・若君に対して唯は少年のような少女。平成の現代では、走ることにしか興味のない手足がひょろりと細くて少年みたいだった唯が男のふりをして足軽になり、その足の速さを生かして大活躍していくことが爽快なうえ、若君に恋して泥だらけで戦場を走り回っているうちに徐々に女の子らしくなっていく。その過程もよく描けていた。

 ふたりがなかなか親密にならないもどかしさ。キスまで行き着きそうになるまでどれだけ話数を費やすのか。でもその初々しさがたまらない。本放送当時、唯を演じた黒島結菜も若君を演じた伊藤健太郎も、ふたりそろってデビューから数年の20歳だった。俳優も、慣れてくると、キュンとなる動作を研究に研究を重ねて再現するプロの巧さになっていくものだが、このふたりはまだそこまで至っていない、かといってど新人の危うさもない。ふたりの俳優にとって極めて絶妙な時期。彼らのフレッシュさと作品が見事に合致した『アシガール』は奇跡の1本だったのである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる