『帝一の國』は結果的に“オールスター映画”に 菅田将暉、竹内涼真、永野芽郁らにもたらしたもの

菅田将暉ら『帝一の國』俳優の現在

 日本映画の黄金期には主演級の俳優たちが一堂に会する“オールスター映画”と呼ばれる贅を尽くした作品が数多く作られたが、いまではすっかり少なくなってしまった。しかし、2010年代に若手俳優が群雄割拠する時代が訪れたことで、公開時にはまだ売り出し途上だった若手俳優が数年で主演級へと成長し、結果的に“オールスター映画”に準ずるだけの価値を見出す作品というものがいくつか見られるようになった。そうした、いわゆる“青田買いを成功させた作品”ないしは“後出しオールスター映画”とでも呼ぶべきか。その中でも、ひときわ特異な輝きを放っているのが、2017年に公開された『帝一の國』だ。

 古屋兎丸の同名コミックを原作に、総理大臣を輩出する超エリート高校の生徒会長の座をめぐる男たちの骨肉の争いが描かれる本作は、CMから映画界へと進出した永井聡監督の真骨頂ともいえるパンチの効いたキャラクターとテンポ感の良いコミカルな構成が際立った佳作だ。メインキャスト陣は、公開当時から若手俳優界ではそれなりの地位にあった面々ばかりではあったが、それでもティーン向けのキラキラした映画や特撮作品など、登竜門とされる作品で頭角を現していただけにすぎなかった。ところがたった3年余り、若手俳優界の勢力図が変化するなかでも彼らは紛れもなく次のステップに進むことを叶えたのだ。これだけ出演者が揃いも揃って成功を遂げた作品というのは少ないのではないだろうか。

 主人公の赤場帝一役を演じたのは菅田将暉。彼のその後の活躍はもはや説明不要だろう。本作の後に公開された『あゝ、荒野』で国内の映画賞を総なめにし、名実ともにトップクラスの若手俳優へとのぼりつめれば、昨年は『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)では教師役として、少し下の世代の若手俳優たちをまとめあげる。少し浮世離れしたアクの強い役柄を演じさせても、また対照的に苦悩めいた青年を演じさせてもしっかりと役にハマる。本作以前からたしかにそうであったが、極めて極端なキャラクター性に振り切った本作によって、より顕著なものとなったことで“演技派”というフレーズが定着したように思えてならない。

 帝一のライバル・菊馬役を演じた野村周平といえば、本作の前に『ちはやふる』や『サクラダリセット』があったことですでにブレイクの波に乗り始めていた存在だ。本作では菅田に負けじとかなりパンチの効いたキャラクターへと変身し、コミック的なキャラクターへの対応力を示す。とはいえ彼の持ち味は、時に血気が盛んで時に無気力にもなり得る等身大の若者像だ。本作後の『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』でその演技力に磨きをかければ、その後の主演映画3本、また『電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-』(テレビ東京系)と『僕の初恋をキミに捧ぐ』(テレビ朝日系)など、そのスイッチがよりスムーズに働いていると見受けられる。菅田と同様、性格俳優として息の長い活躍が見込めるだろう。

 そして帝一の右腕的存在である光明役を演じた志尊淳は、『植木等ののぼせもん』を皮切りに『女子的生活』『半分、青い。』とNHKのドラマを中心に持ち前の愛くるしい魅力を発揮し、昨年の『潤一』で一気に新境地を切り開く。また本作では長髪の氷室ローランド役で強烈なインパクトを残した間宮祥太朗は、昨年公開された『ホットギミック ガールミーツボーイ』と『殺さない彼と死なない彼女』で、(ローランドほどではないにしろ)無二の存在感を放ち、スクリーンにいるだけで映える俳優であることを証明する。さらに森園億人を演じた千葉雄大は、愛嬌と真面目さを組み合わせることで、そのどちらとも遠い不思議な貫禄を漂わせることに成功。『スマホを落としただけなのに』シリーズにそれがしっかりと還元されているのだ。

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