『いだてん』仲野太賀の「万歳」に込められた戦争の悲劇 目を背けてはいけない東京五輪までの歩み

『いだてん』前半と全く異なる“万歳”

 10月6日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第38回「長いお別れ」。治五郎(役所広司)の死後、政治(阿部サダヲ)は治五郎の意志を継ぎ、東京でのオリンピック開催に力を注ぐ。しかし日本は戦争によって、平和の祭典とは真逆の方向へと進んでいく。

 ドラマ序盤で印象的だったのは、1940年の東京オリンピック開催に対する政治と副島(塚本晋也)の対峙だ。治五郎亡き今、組織委員会に力はなく、陸軍次官の発言に誰も言い返すことができない。陸軍次官への賛同の拍手が湧き起こる中、副島は苦々しい表情をしていた。

 副島は招致返上を提案。ムッソリーニから命がけでオリンピックを譲渡してもらった副島だが、治五郎が存命しているときから返上を訴え続けてきた。そんな副島の提案に、治五郎から夢を託された政治は葛藤する。

「総理大臣に頼むんだったら戦争の方じゃないの。戦争をやめてくれって電話してくださいよ!」

 しかし副島は「ただ1人悪者になる覚悟で」返上に踏み切った。総理大臣に直談判しようとした副島は「全て私の独断」と口にしていた。返上することで、自身が世間からどのような目で見られるのかは覚悟の上だったのだ。塚本の語りと凛とした演技が、信念を貫き続けた副島の覚悟を伝える。

「“売国奴”、“非国民”と罵られても、私は自分のとった行動を後悔してはいない」

 副島は、葛藤する政治にこうも言っていた。「機が熟せば、いつかやれるさ。東京オリンピック」。1940年の開催は幻に終わるが、副島の言う通り、1964年に東京オリンピックが開催される。つらい決断を下した副島の孤独な背中は視聴者の心に残ったことだろう。歩みを止めるのは勇気がいる。だが、彼の「返上」という判断が新たな一歩を生み出すことになった。たった1人で全てを背負った副島がいなければ、1964年も、そして2020年のオリンピックも開催されなかったかもしれない。

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