野木亜紀子が振り返る、『アンナチュラル』の成功 「自分が面白いと思うものをつくっていくしかない」

野木亜紀子、『アンナチュラル』を語り尽くす

「自分が面白いと思うものをつくっていくしかない」

――ミコトにしても、六郎にしても、なにかしらの軸はあっても、ちょっとそこからはみ出したときもいいなと思いました。

野木:ミコトも極端にいかないほうがいいよねとは言っていて、やっぱり人ってそんなに急変しないじゃないですか。毎回振り切れてたらマンネリに見えるし。ただ、物語の分岐点では、感情が溢れるシーンもやっぱり観たいので、第2話と第5話、最終話は、溢れざるを得ないシチュエーションになってます。分岐点で満を持して出す、みたいな。

――あとは、六郎がみんなにいろんなことを頼まれすぎて、わーっとなるシーンとかも面白かったです。

野木:第5話の冒頭ですね。あれはコントシーンですね(笑)。あれも、普段はそうならない人だからいいのであって、しょっちゅうは叫ばせられませんね。

――あと六郎で言うと、ちょっとミコトへの思慕みたいな気持ちもよかったなって。でも、今って、恋愛を安易に書いたものは嫌だという気持ちもあるじゃないですか。その辺はどう思われていますか?

野木:それって、みんな安い恋愛を見たくないってだけですよね。

――本当にそうです。

野木:それはすごくわかります。私自身も視聴者としてそうなので。

――だから、ちょっとしかなかったですけど、六郎が「ミコトさん」と下の名前で呼ぼうとするシーンとかすごくよかったです。

野木:そういうのは、ちょっとはあったら楽しいよねということで。ただ、やっぱり企画がスタートするときには、「第1話で誰かと誰かのキスシーンがあったほうがいいんじゃないの?」という意見があったりして。

――前に野木さんにインタビューしたときも、そういう話になりましたよね。第1話でキスしたって、なんの背景もわからないし、キャラクターもわからないのに感情移入できるか!っていう意見で一致したという(笑)。

野木:今回もすぐに却下しました。私はもうデビューしたときから、はっきりと言ってしまうたちなので(笑)。

――あとは、ドラマの中でも随所に世の中に対する怒りがこめられてるのかなとも。そこが、もちろんすごく観ていてよかったところなんですけども。

野木:ミコトさんが怒れる人なんですよね。不条理な死と戦う人なので。ただ、いつも目に見えて怒っているということではなく、根底にある怒りを、コントロールしつつも滲ませるという。彼女が肉親に殺されかけたということも、乗り越えてはいるものの、簡単に解消できるものではないし。

――そして、すぐに感情的と言われますし……。

野木:そういうレッテルをいかに外していくか、それが「人なんてどいつもこいつも、切り開いて皮を剥げばただの肉の塊だ」という部分ですね。

――野木さんは、作品の中のキャラクターにもレッテル外しをさせているし、同時に野木さん自身も、脚本のレッテル外しをしているのかなと。例えば、第1話でキスしなくてもいいじゃんって。

野木:自分が面白いと思うものをつくっていくしかないですからね。「こうしたらウケる」とか誰の意見? 知らんがなと(笑)。

――その一方で、やっぱり45分のドラマを楽しみにしてる人に、次も観たいと思わせるように、ちゃんと意識して、面白さは提示しないといけないということも言われていて。

野木:いろんな考え方はあると思うんですけど、脚本が小説や漫画と大きく違うのが、1人のものではないということなんですよね。

――そうですね。小説や漫画が映像化しても、それは後になってからの話ですし。

野木:連続ドラマの場合、演者やスタッフの3か月を背負うことがわかって書いているわけなので、そこで自己満足ではいられないですよね。ただ私としては、面白いものをちゃんとつくりたい。普通に面白いものが観たいし、観せてくれよと。例えば三谷幸喜さん脚本の『王様のレストラン』(フジテレビ系/1995年)は、奇抜ではなくオーソドックスなドラマツルギーの作品なんですが、クオリティが高い。そういう普通に面白いドラマがいいなと思うんです。まあ、『王様のレストラン』のクオリティは尋常じゃないので、それを「普通」と言っていいかはわかりませんが(笑)。今回の『アンナチュラル』も、奇をてらうつもりも、新しいミステリーをつくるというつもりも特になかったんです。今の時代に、普通に面白く観られて、かつ考えさせてくれるものがつくりたかった。それを突き詰めた結果こうなったという。それで言うと、『逃げ恥』もそうなんですけど。

――面白くて、考えさせるってでも、すごく難しいことだけど、それを野木さんはやれているわけで。そこはプレッシャーはありませんか?

野木:毎回、全力でやるしかないと思ってます。作品ごとに、出演している人も体張ってるわけだから、1作もおろそかにできないです。

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